第5話:肉の泥沼

 一度決壊したダムは、もう二度とせき止めることなどできなかった。
 私とお義兄様の身体の相性は、言葉を選ばずに言えば、異常だった。

 凹と凸。
 鍵と鍵穴。
 そんなありふれた比喩では追いつかない。

 私の膣内のひだの一つ一つが、お義兄様の剛直の形を記憶している。
 彼が侵入してくるだけで磁石のように吸い付き、離そうとしない。

 彼氏の奏多とのセックスは、台本をなぞるようなわざとらしい「人工的」な演技の『アーティフィシャル・セックス』だった。
 一方、それに対してお義兄様とのセックスは、呼吸をするように「自然(ナチュラル)」で、溺れるように苦しい本能の行為の、いわば『ナチュラル・セックス』。

 ん、チュ、じゅる……ッ。
「は……結愛、いい舌の動きだ……」

 今日の私たちは全裸で互いの秘所を顔の前に晒し合い、貪り合っていた。
 私の顔の上には、赤黒く勃ち上がったお義兄様の雄があり、彼の顔の上には、愛液で濡れそぼった私の雌がある。

 私は夢中で彼の竿を舐め上げた。
 裏筋の血管、カリの張り、独特の匂い。
 そのすべてが愛おしく、美味しい。
 同時に、下からはお義兄様の巧みな舌が、私のクリトリスを執拗に攻め立てている。

(あッ、んぅ! お義兄さんの舌も、すごいぃ……ッ!)

 上と下からの快感で、脳が溶ける。
  私たちは人間としての尊厳を捨て、互いの体液を啜り合う獣に成り下がっていた。

 彼に抱かれるためならプライドも恥じらいも捨てた。
 ある夜、彼は私に一着の衣装を渡してきた。
 丈の短いナース服のセクシーなコスプレ衣装だった。

「着てみろ。俺専属の看護師なんだろう?」
 お義兄様からのマニアックなリクエスト。
 でも私は嬉しかった。

 下着をつけずにナース服一枚だけを羽織る。
 動くたびに裾から秘部が見え隠れする。
 その煽情的な姿で、ベッドに座るお義兄様に跨った。

「患者さま。専属の看護師の結愛が、身体で癒してさしあげます」

 自ら腰を沈め、彼を受け入れる。
 ズプゥ……。

 セクハラに耐えながら、真剣に働く看護師さんを冒涜するような、淫らなナース服でのセックス。
 その背徳感が私の興奮をいっそう増幅させた。
 お義兄様の肩に手を置き、腰を激しく上下させる。

「あッ、あッ、見て! 私、患者さんので、いっぱいになってる……ッ!」

 騎乗位でお義兄様を見下ろす。
  普段は冷静な医師である彼が、私の腰使いに理性を乱し快感に喘いでいる。
 その顔を見られるのは私だけ。

 私は彼を喜ばせるためなら、どんな淫乱な女にでもなれた。
 場所さえ選ばなかった。
 彼がしたいと言えば、ドライブ中の車内で、あるいはキッチンのテーブルで、私はすぐに膝をつき、ズボンのチャックを下ろして奉仕した。
 いつでも、どこでも、彼を「癒す」準備ができている便利な濡れた穴。
 それが私の存在意義になっていた。

 とうとう、私は残る穴をも差し出した。
 ある夜、バックで激しく突かれていた時、お義兄様の指が濡れた秘部の後ろにある狭い蕾を愛撫した。

「……結愛。ここも、俺にくれるか?」
「え……っ?」
「お前の全部が欲しい。汚い場所も含めて、すべて俺のモノにしたい」

 お尻なんて。
 そういう行為があるのは知っていた。
 痛いし、汚いし、絶対に無理だと思っていた。

 でも、お義兄様の昏い瞳に見つめられると、断ることなんてできなかった。
 彼が望むなら。
 彼が私の汚さのすべてを受け入れてくれるなら。

「……いいよ。お義兄さんの好きにして」

 たっぷりとローションを塗られ、ゆっくりと異物が侵入してくる。
 身体が裂けるような異物感と排泄感。
 直腸の最奥まで穿たれた瞬間、背筋を突き抜けるような精神的な喜びで身体が痺れた。

「入っ、た、か?……全部、入ったようだな、結愛」
「……うん、お義兄さん! 全部、入ってるぅ……ッ!」
「初めてなのにすごいな……結愛、俺たちは身体の相性が良すぎる、なんでだろうな?」

――そんなの、運命だからに決まってる

 お口も前も後ろも、私の三つの穴はすべてお義兄様に開発された。
 私は涙と涎を垂れ流し、尻を振って彼を求め、彼にお尻の中でイッてもらって絶頂した。

 激しい情事のあと、お義兄様の腕の中でまどろみながら姉のことを考える。
 かつて、私は姉・紗香を軽蔑していた。
 優しい夫のお義兄様がいながら、若い男との不倫に溺れ、家庭を壊した愚かな姉。

「だってしょうがないじゃない、身体の相性がばっちりだったんだもの」
 臆面もなくそう言い放った姉を、汚らわしいと思っていた。

 でも、今ならわかる。
 痛いほど、わかる。

(お姉ちゃんも、溺れたのね……この抗えない泥沼に)

 理屈じゃない。
 倫理観や世間体なんて吹き飛んでしまうほどの圧倒的な快楽。
 一度知ってしまえば、もう元のきれいな世界には戻れない。
 私は、あんなに憎んでいた姉と同じ生き物に成り果てていた。

 でも、後悔はなかった。
 奏多との時間は、世間の同調圧力に引っ張られたまがい物。
 お義兄様の体温に包まれている今、この瞬間が自然であり、ありのままの姿なのだから。

――伊織さん、愛してる

 私は彼の寝顔に、音にならない声で囁いた。

 それは契約違反の言葉。
 けれど、もう止められそうもなかった。
 私は何があろうと、どこまでも彼と一緒に堕ちていくことを、固く心に決めた。

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