パールの下着と黒い首輪

 火曜日、目が覚めると世界は昨日までと違って見えた。 退屈な通学電車も、大学教室の無機質なLED灯も、すべてが私とご主人様を繋ぐ「プレイ」の舞台へと変わっていた。元彼からの支配は、ホテルへ行く日曜日を待たずして始まっていた。

『おはよう、梨杏。今日から日曜日まで、俺の遠隔奴隷として過ごせ』
満員電車の中で届いたDM。 そこには具体的な課題が記されていた。
『今日の課題:ノーブラで登校すること。昼休みにトイレで証拠写真を送れ』

 震える手でスマホを握りしめた。 幸い、冬の厚手のニットを着ていたから外見からは分からない。それでも乳首が布地に直接擦れる感覚は、一歩歩くたびに「自分が誰の所有物か」を思い出させた。

 昼休みの女子トイレの個室。 ニットを捲り上げて、硬く尖った胸の写真を撮影した。送信ボタンを押すとすぐに『良い子だ』という短い返信が届いた。 それだけで子宮の奥が熱く疼いた。

 水曜日。 有給休暇をとった恋人が私の部屋でランチに手料理を振る舞ってくれた。 エプロン姿で甲斐甲斐しく働きながら、週末の美術館デートが中止になったことを残念がっていた。
「でも、友達と会えるなんて良かったね。楽しんでおいでよ」
  その優しさが辛かった。

 ピコン。 テーブルの上のスマホが鳴る。ご主人様からだ。
『恋人と一緒にいるのか? 気づかれないようにテーブルの下でスカートを捲って中の写真を送れ』
 恋人がいることは話してしまっていた。

「……梨杏? どうしたの、スマホなんて見て」
 恋人が不思議そうに顔を覗き込む。
「あ、ううん。友達から連絡が来ただけ」
 私は天使のような笑顔で嘘をついた。 テーブルクロスに隠れた死角でスカートを捲って静かにシャッターを押す。カシャッという音をかき消すように食器をカチャカチャさせながら。
(ごめんね、カズヤさん。貴方に微笑みかけながら、ご主人様の命令に濡れているの)
後で送信した写真を見返すと、ショーツが染みついているのがよくわかった。羞恥と興奮でドキドキした。

 その夜、スマホが震えた。
『日曜日は俺の好みの下着をつけて来い。ただし、金はあの男に出させろ』
 続けて、指定されたランジェリーの画像が送られてきた。 清楚なカズヤが見たら卒倒しそうなほど淫靡な代物だった。

 木曜日の大学帰り。私はカズヤさんを誘って、銀座のデパートにある高級ランジェリーショップへと足を運んだ。
「梨杏がこういうお店に行きたいなんて珍しいね」
  カズヤさんは少し顔を赤らめながらも、私の手を引いてくれた。 店内には甘い香りが漂い、色とりどりのレースが並んでいる。 私はカズヤさんの腕に胸を寄せ、上目遣いと甘えるような声で言った。

「カズヤさんに私の下着を選んでほしくて……今度の週末デートできなくなっちゃったでしょ? だから、カズヤさんに選んでもらった下着をつけて、カズヤさんを感じていたいな……なんて……イタい女の子かな?」
「わかった。梨杏に似合う最高のやつを選ぼう」
 イチコロだった。私は彼を誘導して店の奥にある「インポート・セクシーコレクション」のコーナーへと連れて行く。そこでご主人様に指定された一着を指差した。

「ねえ、これなんてどうかな? 大人っぽくて素敵じゃない?」
 カズヤさんは目を見開いて、そのマネキンを凝視する。

【商品名:『ミッドナイト・スキャンダル(真夜中の醜聞)』セット】
・ブラジャー:【1/4カップ(クォーターカップ)・オープンブラ】
 バストを下から支えるワイヤーと、ほんのわずかな黒いレースがあるだけで、乳房のほとんどが露出するデザイン。特に乳首(ニップル)部分は布がなく、着用すると突起が丸出しになる「見せるため」だけのブラジャー。ワイヤーの中央には、安っぽいリボンではなく、重厚な鎖のようなチャームが揺れている。
・ショーツ:【クロッチレス・パール・Gストリング】
 極細の紐で構成されたTバック。最大の特徴は、股間部分(クロッチ)の布地がなく、代わりに大粒のフェイクパールが一列に繋がっていること。歩くたびにパールが秘部を擦り、座れば食い込む。そして何より、下着を脱がなくてもそのまま行為に及べる「穴あき」仕様。

 あまりにも攻撃的で、本来の下着の役割を完全に放棄しているランジェリーセットだ。

「えっ……これ? 結構、すごいデザインだね……」
 カズヤさんが戸惑ったように呟く。当然だ。これは恋人との愛を育むためのものではなく、性具に近い。 さらに胸を押し付けて、顔を耳元に寄せ息を吹きかけるように囁く。
「男のひとって、こういうの好きなんでしょう? 私、カズヤさんに申し訳ないから、お詫びがしたくて……これをつけて、カズヤさんと……女の子に恥をかかせないで欲しい……」

 その一言が決定打だった。
「……ううん、ダメじゃないよ。梨杏がそこまで言うなら……うん、ありがとう」
 彼は顔を真っ赤にしながら店員を呼んだ。
「これをください」
 彼がクレジットカードを差し出す。
 店員が意味深に微笑みながら、その淫らな布切れを薄紙に包んでいく。

 私はその光景を眺めながら、腹の底で黒い興奮に震えていた。
(カズヤさん……ごめんなさい)
  彼が今買っているのは、彼を楽しませるためのランジェリーではない。 日曜日に私が別の男の前で乳首を晒し、別の男を膣内に迎え入れるためのものなのだ。

「大切に着るね、カズヤさん」
  店を出て、綺麗な包装紙に包まれた紙袋を宝物のように抱きしめる。その中身が私の秘部をパールで刺激し乳首を空気に晒す瞬間を想像して、下着の中は濡れはじめていた。

 帰宅した私は震える手で『ミッドナイト・スキャンダル』を取り出し、身につける。鏡の前に立った私は、自分の姿に息を呑んだ。
「……なにこれ。裸より恥ずかしい……」

 黒いレースのブラジャーは、本当にバストの下半分を支えるだけで、乳首は完全に空気に晒されている。寒さと緊張で尖りきった突起が、鏡の中で存在を大いに主張している。布地があるべき股間には、大粒のフェイクパールが一列に並んでいるだけ。 少し動くたびに冷たく硬い真珠が秘裂に食い込み、敏感な芽をゴリゴリと擦り上げる。

(んっ……! 歩くだけで、イっちゃいそう……)

 この卑猥な姿。カズヤさんが「僕のため」と信じて数万円を支払ったこの姿を、本当に捧げるべき相手に見せなければ。 スマホを構え、鏡越しに自撮りをした。 乳首が丸見えの上半身と、パールが食い込んだ股間がアップになるように。送信。

 既読は数秒でついた。
『恋人におねだりしたエッチな下着の着心地はどうだ?』
『はい……すごく、恥ずかしいです……』
『嘘をつけ』

 ご主人様から私が送った写真の一部が拡大されて送り返されてきた。 股間のアップだった。 白い真珠の列が愛液で濡れてテラテラと光り、太腿の内側にまで透明な糸が垂れているのが、高画質のレンズで鮮明に捉えられていた。

『真珠が濡れているぞ。着ただけで発情している証拠だ』
『はぁ……ん』
『あいかわらず性欲を持て余しているようだな……ビデオ通話に出ろ』

 画面が切り替わって着信音が鳴る。 慌てて通話ボタンを押すとスマホをドレッサーに立てかけた。 画面の向こうには、暗い部屋から私を見つめるご主人様がいた。

「……ご、ご主人様、見えます、か?」
「立て。全身を見せろ」

 言われるがままに立ち上がると、パールがクリトリスを擦り、腰が抜けそうになる。 画面越しに見られる私の姿。 恋人が買ってくれたエッチな下着を着て、さっそく恋人ではない男に見せて興奮している私。

「いい眺めだ。乳首も勃ち上がっている。……オナニーを許可してやる」
「は、はいっ……!」
 慌てて指を這わせようとすると、鋭い声が飛んだ。
「待て。指で触るな」
「え……?」
「そのための真珠だろう? 下着は脱がず、手も触れず、腰を振ってその真珠だけでイってみせろ」

なんと残酷な命令だろう。 直接触ればすぐに楽になれるのに。この硬い球体の摩擦だけで達しろというのだ。 けれど、その焦らしが私を狂わせた。

「はい……っ、やります……!」

 カーペットの床にお尻をつけてぺたんと座り、腰を前後左右に振り始めた。 カチ、カチ、とパール同士がぶつかる微かな音。 そして、ヌルッ、ヌルッという粘着質な音。

「んっ、ぁ、あぁッ! ご主人様、これ、すごいっ……!」

 硬い真珠の粒が、濡れた秘肉を容赦なく転がる。 ある粒はクリトリスを弾き、ある粒は膣口を押し広げようと食い込む。 私の愛液でヌルヌルになったパールが、指とは違う無機質な快感を刻み込んでいく。

「あ、ひっ、恋人が、買ってくれたのにっ……ご主人様のこと、考えてっ……!」
「そうだ、もっと腰を触れ。真珠をマンコで磨くつもりで動かせ」
「はいッ! 磨きます、あぁッ、パール、食い込んでぇッ!!」

 画面の中のマスターが、私の淫らな腰使いを見て楽しんでいる。 晒け出された乳首が興奮でさらに赤く充血して、汗ばんだ肌に張り付く髪が揺れる。

「あ、くるっ、もう、だめぇッ!」
「イッていいぞ、遠慮するな」
「ハイっ……あっ、あぁああーーッ!!」

 ガクガクと膝を震わせて床に寝ころぶ。 ビクン、ビクンと股間が痙攣するたびに、真珠の列が波打ち、大量の蜜が溢れ出して床を汚していく。 太腿を伝う愛液と、精液のように白濁したパール。

「はぁ、はぁ……っ」
  呆然とする私に、スピーカーから満足げな声が響いた。
「日曜日は、その汚れた下着のまま来い。その下着ごと、俺が味わってやる」

 通話が切れた後も、私はしばらく動けなかった。 汚された真珠の冷たさと、心に残る背徳の熱が、深夜の部屋に残されていた。

 金曜日。
『日曜日は、俺が昔買い与えたあの首輪を持ってこい。捨ててはいないだろう?』

 捨てられるわけがない。 クローゼットの奥底に隠してあった黒革の首輪。 私はそれを震える手で取り出した。革の匂いを嗅ぐと、JKの頃の記憶が鮮烈に蘇る。
 鏡の前で全裸の首に巻いてみた。恋人がプレゼントしてくれた華奢なネックレスよりも、この無骨な革の輪っかの方が安心感を与えてくれる。

「……はい、ご主人様。私は貴方のものです」

 誰もいない部屋で、鏡の中の自分に向かって日曜日に捧げる誓いの言葉をリハーサルした。 鏡に映る私は、頬を紅潮させ、発情した牝の眼差しを明後日に向けていた。

 その1週間は、私を調教し直すための準備期間だった。 焦らしと遠隔からの支配。私の理性はとろとろに溶かされ、日曜日の再会に向けての名状しがたい感情が限界まで高められていた。

 日曜日。 恋人に「行ってきます」と可愛いスタンプを送り、お気に入りの勝負下着の上に清楚なワンピースを纏って家を出た。 バッグの底には、黒い首輪が眠っている。

 電車に揺られながら武者震いしていた。目的地であるSMホテルの最寄り駅に降り立ったときの足取りは、美術館へ向かう時とは比べ物にならないほど軽やかだった。

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