でも、彼との関係がぎくしゃくし始めた。自分の性癖の禁断の扉が彼によって開かれてしまい、交際を続けたら彼が宣言したとおりの存在にされてしまう。しかも、それに恐怖だけでなく魅力も感じている自分がわからなくなった。彼とどのように接したらいいのかもわからなくなった。会う回数を減らすために、次の生理がくるか妊娠したのか判明するまでセックスしないと言って彼を避けた。
3学期が始まってからも、彼との仲はぎくしゃくし続けた。様子を見かねた親友が心配してくれた。彼との距離が開いた気がして心細かった、私は正月のセックスのことを打ち明けてしまった。内緒にしてねと念押ししておけば大丈夫だろうと。
もちろん、全然大丈夫ではなかった。
3学期になれば3年生は自由登校。地元のプログラミングの専門学校に進学が決まっていた彼はリゾート地でのアルバイトに明け暮れていて、学校に顔を出すことはなかった。彼の不在をついて悪い噂があっという間に広まった。
ー学年が下の彼女に暴力で変態的なセックスを強要し、妊娠させようとしたー
暴力を受けてもいないし、強要されてもいなかったし、避妊無しのセックスはそのたったの1回だけ。そう反論したかった。
でもそうすると、私も彼の同類・変態だということになってしまう。友達同士のおしゃべりでSだMだと話題にしても、ファッション感覚の想像の世界でしかなかった。具体的な行為になると、世間的にはとても厳しい現実を思い知らされた。
ー私はあと2年間この学校にいなくちゃいけない……彼はもうすぐ卒業……なら彼にこのまま泥をかぶってもらおう……彼とは別れたということにしておけば、卒業後は噂も立ち消えになるはずだわ……ー
彼には相談せず、一人で決めてしまった。彼にはあとでちゃんと話すつもりだった。私も地元の大学に進学しようと決めていた。彼が卒業しても別れるつもりは全くなかった。
彼に、誤解を招かないよう詳しいことは会って話すと連絡し、バイト先から戻る日に最寄駅で待ち合わせた。私の考えをきちんと説明したら彼もわかってくれた。変な噂を立てられたくないから、表向きは別れたことにしようと相談して決めた。お互い好きなのにこんなことで別れたくないし、彼が高校を卒業しても毎週会おうねと話すと嬉しそうに笑った。気持ちが盛り上がった流れで、どちらからともなくラブホに誘い、変態プレイで愛を確かめ合った。
その帰り道。人通りの少ない場所で思わぬ事件が起きた。
どうやら私は、自分で思っていたよりもずっと人気があったらしい。その反動で彼をよく思わない男子も多かったらしい。その中でも特に喧嘩早い一人の男子が、数人の仲間と組んで彼に喧嘩を売るなんて全くの想定外だった。私たちがこじれたこの機会に彼を懲らしめ私を守り、あわよくば恋人同士になろうと画策したようだ。
詳細は省くけど、返り討ちにした彼は一人に重傷を負わせてしまった。運の悪いことに、地元の名士の息子だったため恨みを買い、高校は卒業間近で退学になり、高卒資格を無くして進学もできなくなった。正当防衛だったのに。人間関係の狭い地方都市の嫌なところだ。私は保身のため地元の名士の側についた。そんな自分を恥じた。
彼の母親の男癖の悪さも吹聴され、地元から追い出されるように二人は姿を消した。それ以降、彼とは一度も会っていないし、合わせる顔がないから会いたくもない。酷い女だと自分でも思う。このときから私は自分のことを嫌いになってしまった。
だから彼のことは思い出さないようにしていたのに。彼を忘れるために東京の女子大に入学したのに。社会人の恋人ができて、卒業したら結婚しようと約束しているのに。最後に会ってから5年も経っているのに。
深夜に夢から醒めるとスマホの通知音がした。私SNSの裏アカウントに『牝奴隷・梨杏へ』というDMが届いたところだった。恐る恐る読む。元彼からだった。
ー東京で元気に生きている。偶然みつけた裏アカをずっと読んでみて梨杏と確信した。お前は俺にやらなくてはならないことがあるはずだ。1週間後の日曜日。●●というラブホテルで待っているー
裏アカを始めたのは、優しすぎる恋人への不満や欲求不満を解消するためだった。太腿や下着姿や胸の写真を載せたりもしていた。でも本当の理由、は彼に私を見つけてほしかったからだ。でも、本当に見つけられてしまうなんて。どうしたらいいのだろう。
今度の日曜日は恋人とデートの約束をしていた。場所は美術館。恋人の趣味だった。美術館デートは何度もしていたが、実は私は好きなふりをしているだけで飽きていた。恋人と私は自分達が愛し合っているからというより、周りから理想のカップルと言われたくて交際しているのかもしれない。
恋人と彼の顔を思い出して想像する。美術館で饒舌に語る恋人の隣を歩いている私、つまらなそうな顔。いかがわしいラブホテルで昔の彼に責められている私、恍惚とした顔。イケメンで彫刻のような恋人の顔が薄れ、三枚目だが愛嬌のある元彼の顔が濃くなる。優しくて、押しが強くて、精力的で、とってもエッチで、変態だったあの頃の彼の顔が。
……そうだ、私は昔の彼に会って謝罪しなければならない、この身体で。逃げ続けていたけれど、見つかってしまったからには仕方ない。そういう運命だ。
恋人に、地元の友達と数年ぶりに会えることになったと連絡する。社会人の優しい恋人は私の都合を必ず優先してくれるからこれで大丈夫。すぐに、わかったデートは中止しようと言ってくるはず。昔の彼にはハートマークだけ送った。
示されたホテルを調べたら本格的なSMホテルだった。彼らしい。そこで彼にどんなふうに責められるのだろう?私はどれだけの快感を得てしまうのだろう。どんな牝奴隷に堕ちてしまうのだろう。
妄想しているうちに下半身に手が伸びていた。あの日彼に命じられてから、ずっと剃り続けている。
また通知音が鳴った。恋人からだ。私はそれを無視して、今私とのプレイを想像して自慰しているであろう御主人様とのシンクロ自慰に没頭していった。