渋谷、道玄坂。
大学のチャペルから響く正午の鐘の音は、ここまでは届かない。
ミッション系の厳格な学風で知られる我が校の学生が、空きコマを使ってラブホテル街に消えるなど、生活指導担当が見たら卒倒するだろう。
「今日は『倫理学』の講義だったな」
シャワーを浴びたばかりのマスターが、ベッドに腰掛けて嘲るように言った。
「はい。ですが、私にとってはこちらのほうが重要な実習ですので」
私は平然と答え、彼の前に跨った。
互いの頭部と股間を逆向きに重ねる「69(シックスナイン)」の体位。
私の視界には、彼の逞しい下半身と、これから奉仕すべき熱源がある。
そして私の股間には、冷徹な支配者の顔がある。
これは最も公平に見えて、最も残酷な体位だ。
私が少しでも手を抜けば、私の秘部は即座に見透かされ、制裁を受けるのだから。
最初の数回は、散々だった。
「ん……っ、ふぅ……!」
私が彼のモノを口に含み、奉仕を開始すると同時だった。
私の秘部に、彼の巧みな舌が這ったのだ。
(っ!? 速い、動きが……!)
ただ舐めるだけではない。
執拗に核を弾き、吸い上げ、焦らす。
下半身から突き上げる電流のような快感が、脳の処理能力を一瞬で奪い去る。
「ん、ぁっ! だめ、そんな……っ!」
口の動きが止まる。
呼吸が乱れる。
彼のモノを噛んでしまいそうになり、慌てて口を離してしまった。
「あ、ああっ、イくッ! 許して、イっちゃう……!!」
私は彼の顔に自分のそれを押し付けたまま、無様に腰を跳ねさせ、一人で絶頂に達してしまった。
奉仕は中断。
彼を射精させるどころか、萎えさせてしまったかもしれない。
「おい」
絶頂の余韻でガクガクと震える私の太腿が、乱暴に叩かれた。
見上げると、濡れた口元を拭ったマスターが、氷のような視線で私を射抜いていた。
「誰がイっていいと言った? 俺はまだ達していないぞ」
「も、申し訳……ありませ、ん……」
「自分の快楽に負けて奉仕を疎かにするなら、ただの牝犬以下だ。優奈でも、もう少し我慢できるぞ」
その言葉は、私の弛んだ精神を張り飛ばした。
それからの数週間、空きコマのたびに特訓は続いた。
平日の午前、昼休み、夕方の講義前。
私の課題は「どんなに激しく攻められても、口の動きを止めないこと」。
私は必死に対策を練った。
下からの刺激はノイズだと思い込むのだ。
彼が私のクリトリスを吸い上げる音、舌の感触。それらを感じてはいけない。
私の全神経は口の中に集中させる。
舌の回転数、バキュームの強弱、喉の深さ。
下半身が熱くなればなるほど、私はそれを燃料にして、口の動きを加速させた。
「……ん、っ……うぅ……!」
(感じちゃダメ。これは、ただの信号。私の仕事は、彼をイかせること……!)
涙目で耐える私を見て、マスターは嗜虐的に笑い、さらに舌使いを鋭くする。
これは我慢比べだ。
私が先に音を上げて腰を逃がすか、彼が私の奉仕に屈して精を放つか。
そして、ある雨の降る平日の午後。
ついにその瞬間が訪れた。
「んむ……ッ、ん、んーッ!」
私は限界だった。
マスターの愛撫は今日、特に執拗で、私の理性を根こそぎ削り取りに来ていた。
腰が勝手に跳ねそうになるのを、彼の太腿を掴んで必死に抑え込む。
もう無理、イく、イってしまう。
(なら、その前に――落とす!)
私はイチかバチか、口の中の動きを限界まで早めた。
喉の奥を締め上げ、舌をスクリューのように回転させ、彼の敏感な部分を一点集中で攻め立てる。
私の悲鳴を、すべて吸引力に変えて。
「――っ、く……!」
彼の下腹部が大きく跳ねた。
勝った。
そう思った瞬間、私の限界も決壊した。
「ん――ッ!!!」
ドクン、と喉の奥に熱い濁流が放たれる。
同時に、私の身体も弓なりに反り返り、強烈な絶頂が全身を貫いた。
彼の精液を飲み込む喉の嚥下運動と、膣の収縮が完全にシンクロする。
飲み込むたびに、イく。
イくたびに、喉が締まり、彼をさらに搾り取る。
「ぷはっ……ぁ、あ……っ」
すべてが終わり、重なり合ったまま荒い息をつく。
口の中には、まだ彼のご褒美が残っている。
下半身は、彼に愛された余韻で痺れている。
私は朦朧とする意識の中で彼を見下ろした。
彼は満足そうに、私の汗ばんだ髪を撫でてくれた。
「合格だ。よく耐えたな」
その一言で、私の脳内麻薬が再び溢れ出した。
(ああ、気持ちよかった……)
彼を気持ちよくさせることが、私にとって最大の快楽になる。
その倒錯した回路が、ついに完成した瞬間だった。