別れのためのデート&セックス対決①

 その夜、私たちはさらに激しく交わり、明け方近くになってようやく眠りに落ちた。

 数日後、ご主人様から短いDMが届いた。
『今夜19時、駅前の●●カフェにカズヤを呼べ。俺が直接話す』

 私は躊躇なくカズヤさんに連絡した。
「大事な話があるから来てほしい」とだけ伝えると、カズヤさんは何も言わずに了承してくれた。

 指定されたカフェは、静かで照明の柔らかい店だった。
 私はご主人様の指示通り、黒い首輪を薄手のタートルネックで隠し、シンプルな下着を身につけていた。先に着いていたご主人様は、窓際の席で落ち着いた様子でブラックコーヒーを飲んでいた。

 日差しのもと、あらためてまじまじと眺めると、彼は昔より少し大人びて、知的で落ち着いた雰囲気を纏っていた。社会人3年目のカズヤさんより年下とは思えない、理知的な眼差しだった。

 カズヤさんが到着すると、ご主人様は立ち上がり、静かに頭を下げた。
「初めまして。梨杏の元彼です」

 カズヤさんは一瞬、目を細めたが、すぐに丁寧に挨拶を返した。3人でテーブルを囲む。重苦しい沈黙が落ちていた。

 ご主人様は感情を抑えた、落ち着いた声で切り出した。
「単刀直入に話します。俺が梨杏を取り戻した。正確には、取り戻したというより、元々結ばれるべき関係だったものを、ようやく正しい形に戻しただけです。
 梨杏とは中学時代からの付き合いですが、ちょっとした誤解で一度離れただけで、本来は主従として深く結ばれる運命だったと考えています」

 カズヤさんの顔が、みるみるうちに強張った。
「……は? 何を言ってるんですか?」
 声が上ずっている。普段は穏やかなカズヤさんが、明らかに動揺を隠せていなかった。

 ご主人様は冷静に続けた。
「信じがたいのは理解できます。でも事実です。梨杏は俺のものです。あなたが彼女を優しく大事にしてくれていたことには感謝しています。しかし梨杏が本当に求めているのは、俺との関係なんです」

 カズヤさんは私を振り返り、信じられないという目で見た。
「梨杏……これは本当なのか? 君が望んで……?」
 私は俯いたまま、小さく頷くことしかできなかった。

 ご主人様はさらに淡々と提案を続けた。
「納得できませんか? じゃあ、こうするのはどうでしょう。お互い、梨杏と1度ずつデートをする、身体の関係までを含む。デートは遠くから見てもかまわない。身体の関係は動画配信で見届ける。どちらも公平に、第三者がいない状態で。そうすれば、梨杏が本当にどちらを求めているのか、身体ごと、はっきりするはずです」

 カズヤさんの表情が一気に変わった。当惑と怒りと恥ずかしさが混じり合い、声が震えている。
「身体の関係、まで? 冗談じゃない。そんな馬鹿げた提案、梨杏が了承するわけがないでしょう!君は彼女をなんだと思ってるんだ? 僕たちは真剣に交際してるんだ!」
 カズヤさんはテーブルに手をつき、身を乗り出して抵抗した。顔は赤く、瞳には明らかな拒絶の色が浮かんでいた。

 ご主人様は一切動じず、静かに言葉を返した。
「馬鹿げているようですが、これが最も論理的で公平な方法です。言葉だけでは梨杏の本心はわかりません。あなたが本当に梨杏を愛しているなら、彼女の全てを直視した上で判断できるはずです。逃げるということは、最初から自信がないということになりませんか?」

 カズヤさんは拳を握りしめ、長い沈黙の後、苦々しい声で言った。
「……信じられない。こんな異常な提案を、平然と……。梨杏、君は本当にこれでいいのか?」

 私はご主人様の視線を感じながら、はっきりとした声で答えた。
「ええ。カズヤさんに、私の本当の姿を、知ってほしい。それが、みんなのためだと思うから」

 カズヤさんは絶句した。その瞳には、深い傷つきと混乱が浮かんでいた。

 ご主人様は静かにスマホを取り出し、カレンダーを開いた。
「では、日程を決めましょう。まずはあなたと梨杏のデートを優先します。その様子は、梨杏から俺に報告してもらいます。次に俺と梨杏の番です。公平にね」

 カズヤさんは唇を強く噛みしめ、長い間黙っていたが、最後に絞り出すように言った。
「……わかった。受けます。ただし……梨杏が心から望んでいるなら、だ」

 本当にいいのかという思いを込めて私を見つめる彼に、私は大きく頷いた。カズヤさんはがっくりと肩を落とし、千円札を置いて出て行った。

 ご主人様は私の腰にそっと手を回し、耳元で低く囁いた。
「よく耐えたな、梨杏。お前はもう、立派な俺の牝奴隷だ。これでカズヤには、俺が泥を被った形になる。後はお前の身体が、すべてを証明してくれる」
「はい。ありがとうございました、ご主人様」

 私は両手を固く握りしめて、静かに息を吐いた。
 ご主人様が私を悪者にならないよう、泥をかぶってくれた。
 その想いに応えるため、私はもう後戻りできない。
 これが、私の選んだ道。

 そして、心の奥底では――この三角関係が、私を激しく昂ぶらせ始めていることに、気づいてしまっていた。

 土曜日。
 私はいつものように清楚な普段着――膝丈のベージュのニットワンピースに黒のタイツ、シンプルなローファーという、地味と言えば地味な格好で家を出た。ご主人様からは特に指示がなかった。

 待ち合わせの美術館前で、カズヤさんは緊張を孕んだ笑顔で待っていた。
「梨杏、おはよう。今日はいつものように楽しもう」
 私は小さく微笑み返したが、心の中はすでに冷めていた。

 美術館の中を歩きながら、カズヤさんはいつものように熱心に絵画の解説をしてくれた。以前なら「うん、面白いね」「カズヤさん詳しいね」と相槌を打って、彼を湛え、自分も楽しいふりをしていた。でも今日は、もうそんな演技をする必要はないのだ。

「ねえ、カズヤさん」
 私はある抽象画の前で足を止め、はっきりと言った。
「正直に言うね。美術館デート、実は今までずっとつまらなかった。こういう絵には全く興味ないけど、カズヤさんが楽しそうだから合わせてただけなの」

 カズヤさんの足が止まった。驚いた顔で私を見下ろし、声を震わせた。
「……そう、だったんだ。俺、梨杏が好きだって思ってて……無理させてたんだね」

 その声があまりにも悲しげで、胸が少しだけ痛んだ。
 でも、それはほんのわずかだった。頭の中はすぐに明日のご主人様とのデートへの期待でいっぱいになっていた。どんな服装でいこうかしら……? ご主人様となら、どこに行っても楽しいわ。

 美術館を早めに切り上げ、私たちは予約してあったフレンチレストランへ移動した。
 白を基調とした上品な店内。カズヤさんは少し無理をして高めのコースを注文してくれた。

 出てくる料理はどれも本当に美味しかった。
 フォアグラのテリーヌ、濃厚なソースの牛フィレ、季節のデザート。
 私は素直に目を輝かせて食べた。

「これ、すごく美味しい!カズヤさん、ありがとう。こんな素敵なランチ、久しぶり」
 カズヤさんは救われたかのように切なく微笑んだ。
「梨杏が喜んでくれてよかったよ」

 食事が終わると、カズヤさんは自分の部屋に誘った。私は何も言わず、素直について行った。
 カズヤさんの部屋は、いつものように清潔で落ち着いた雰囲気だった。

 ベッドに腰を下ろした瞬間、ご主人様からのDMがスマホに届いた。
『配信をスタートしろ。俺がよく見える位置と角度に置け』
 私はカズヤさんに確認し、スマホをベッドサイドのテーブルに立てかけ、ビデオ通信モードをオンにした。画面の向こうに、ご主人様が静かに見ていると思うだけで、下腹部がじんわりと熱くなった。

 カズヤさんは優しく私を抱き寄せ、いつものようにキスをしてきた。柔らかく、丁寧なキス。
 でも、私の身体は全く反応しなかった。
 服を脱がされ、ベッドに横たわると、カズヤさんは私の胸や太ももを優しく撫で始めた。愛撫は丁寧で、決して乱暴ではない。でも、ただそれだけだった。学生時代、ご主人様に散々仕込まれた敏感な部分は、まるでスイッチが入らないままだった。

「梨杏、好きだよ」
 カズヤさんが耳元で囁きながら、私の脚を開こうとする。私は小さく息を吐いて身体を起こした。
「……今日は私がするね」

 私は彼をベッドに押し倒し、ズボンのベルトに手をかけた。学生時代に何回と繰り返した、ご主人様のための奉仕技術の訓練を、久しぶりに思い出しながら。

 丁寧にパンツを下ろし、勃起した彼のものを手で包み込む。
 舌を這わせ、亀頭を丁寧に舐め上げ、喉の奥まで深く咥え込む。
 鼻にかかった声でリズムを刻みながら、片手で玉を優しく揉み、舌先でカリの裏を執拗に刺激する。
 ご主人様に「完璧にしろ」と何度も叩き込まれた動きだった。

「うっ……梨杏……すごい……」
 カズヤさんの声がすぐに上ずった。腰がビクビクと震え、抵抗する間もなく、わずか3分ほどで彼は私の口内に達してしまった。

 熱い精液が喉に飛び散る。私は飲み込まずテッシュに吐き出した。カズヤさんは荒い息をしながら呆然としていた。気まずい沈黙が部屋に落ちた。

 私は何も言わず、ティッシュで口元を拭った。身体は全く火照っていない。むしろ、冷めきったままだった。

 カズヤさんはベッドにぐったりと横たわり、虚ろな目で天井を見つめていた。
「……ごめん。なんか……情けないね」

 私は無表情で無言を貫いた。スマホの画面の向こうで、ご主人様がどんな表情をしているのか、想像するだけで胸の奥が疼いていたのを隠すために。

 私は服を着直して「帰るね」とだけ告げて部屋を出た。すぐにカズヤのことは頭から消え、明日のデート服で悩み始めていた。

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