8月上旬。夏の日差しがアスファルトを焦がす猛暑の朝、わたしの家の前に、周囲の景色とは明らかに不釣り合いな一台の車が滑り込んできました。
漆黒のボディが濡れたように輝く、巨大な高級セダン。ボンネットには威厳あるエンブレム。以前ノアさんに聞いたことがある「マイバッハ」という超高級車でした。
呆然と立ち尽くすわたしの前に、運転席から降りてきた初老の運転手さんが恭しくお辞儀をしました。
「雪野まゆ様でいらっしゃいますね。どうぞこちらへ」
白手袋をはめた手で、後部座席のドアが開けられます。
近所の人に見られたらどうしよう。心臓が早鐘を打ちますが、両親は仕事に出ていて不在。わたしは逃げ込むように、その冷房の効いた革張りの空間へと身を沈めました。
車内は、外の喧騒が嘘のような静寂に包まれていました。ふかふかのレザーシート。微かに香る高貴なフレグランス。隣には、涼しげな顔でタブレットを操作しているノアさんがいました。
「おはよう、まゆちゃん。時間通りだね」
「おはようございます、ノアさん……すごい車……これ、ノアさんのなんですか?」
「移動用の足だよ。運転まかせのほうが、こうしてまゆちゃんとゆっくりできるからね」
車が滑るように走り出すと、ノアさんは手元のスイッチを押しました。ウィーンという低い音と共に、運転席と後部座席の間が黒いガラスのパーティションで完全に閉ざされます。広々とした車内が、瞬時に二人だけの世界へと切り替わりました。
「これで、運転手にはこちらの声も姿も届かない」
ノアさんがタブレットを置き、わたしの腰に手を回しました。大きな手が、夏用の薄いワンピースの上から太ももを撫で上げます。
「ノアさん……っ」
「緊張しているのかい? 身体が硬いよ」
「だって、運転手さんがすぐそこに……」
「大丈夫だと言っただろう? 彼はプロだ。何があっても後ろを気にしたりしない。……それとも、聞こえるような声で鳴くかい?」
意地悪な囁きと共に、彼の手がスカートの中に侵入してきました。7月のアトリエで味わった、あの痺れるような指使い。高速道路を走る微かな振動と、ノアさんの指の動きが重なり、わたしは声を押し殺して背もたれに身を預けました。
「これからの3日間、まゆちゃんは僕だけのものだ。学校も、親も、友達もいない。僕の『かわいい子』、『Pet』として、僕に愛されるためだけに存在するんだ。わかったね?」
「は、い……ノア、さん……っ」
都内を抜け、景色がビル群から緑へと変わっていく中で、わたしは早くもノアさんの「かわいい子」として愛される悦びを、身体に刻み込まれていました。
*
車は数時間をかけて神奈川を抜け、伊豆半島へと入ります。海岸線の美しいスカイライン。窓の外には、夏の太陽を反射してキラキラと輝く駿河湾が広がっています。天気にも恵まれ、対岸にはうっすらと富士山のシルエットが浮かんでいました。
やがて車は西伊豆・松崎のエリアへと入り、人里離れた断崖へと続く細い車道を進んでいきました。
到着したのは、崖の突端にへばりつくように建てられた、コンクリート打ちっ放しのモダンなヴィラでした。周囲には民家どころか、人の気配すらありません。聞こえるのは、崖下に打ち付ける波の音と、蝉時雨だけ。完全に隔離された、陸の孤島みたいです。
「さあ、着いたよ。ここが僕たちの楽園だ」
エントランスを抜けると、そこには息を呑むような光景が広がっていました。
リビングの壁一面がガラス張りになっていて、その向こうには空と海が溶け合うような青一色の世界。そして、テラスには海面と繋がって見えるインフィニティプールが水を湛えています。
「素敵……まるで映画の世界みたい……」
「気に入ってくれたかい? ここは夕陽が一番美しく見えるように設計させたんだ。さあ、荷物を置いたらテラスに出よう。レッスンの始まりだ」
レッスン。
その言葉の意味を、わたしはすぐに理解することになりました。
*
夕刻。空と海が、ドラマチックな茜色に染まり始めていました。
「世界一」とも称される西伊豆の夕陽。
燃えるようなオレンジ色の光が、ヴィラのテラスを黄金色に染め上げています。
わたしはノアさんに言われるまま、7月のホテルで着た「ロイヤルブルーのワンピース水着」に着替え、テラスのデイベッドに腰掛けていました。
「美しい……。この夕陽の中で見るまゆちゃんの肌は、最高級の美術品のようだ」
ノアさんが、琥珀色のオイルが入った小瓶を手に近づいてきます。背景には、海に沈みゆく巨大な太陽。逆光になったノアさんのシルエットが、神々しく見えました。
「さあ、脱いで。せっかくの美しい肌に、水着の跡なんて残したくないだろう?」
拒否権などありません。わたしは水着のストラップを外し、腰まで下ろしました。潮風が露わになった胸を撫でていきます。
屋外で、しかもこんな開けた場所で胸をさらけ出すなんて。羞恥心で乳首がキュッと縮こまりました。
「隠さなくていい。ここには誰も来ない。見ているのは僕と、あの夕陽だけだ」
ノアさんがわたしの手首を掴み、胸の前から退かせます。温かいオイルをたっぷりと掌に取ると、わたしの胸に塗り始めました。
「んっ……あ……」
とろりとしたオイルの感触。ただのサンオイルではありません。塗られた場所からカッカと熱くなる、特殊な感度向上オイルでした。
「『日焼け止め』だよ。まゆちゃんのこの白磁のような肌を、紫外線から守るためのね。同時に、これは魔法のオイルだよ。まゆちゃんの眠っている神経を呼び覚まして、風が触れるだけでも感じてしまう身体にするんだ」
ノアさんの大きな手が、オイルで滑りを良くして、わたしの胸を優しく、時に激しくマッサージします。内側から外側へ、下から上へ。リンパを流すような手つきでありながら、その指先は執拗に乳首を掠めていきます。
「あっ、んんっ! ノアさん、そこ、敏感に……っ!」
「いい声だ。海風に乗って、まゆちゃんの声が空に溶けていくようだ」
夕陽に照らされたわたしの胸は、オイルでてらてらと輝き、まるで黄金の果実のように見えたことでしょう。ノアさんはその光景を楽しみながら、さらに指に力を込めるのです。
摘み、引っ張り、掌で押し潰す。
痛みと快感の境界線が曖昧になり、わたしは夕陽の赤に焼かれるように、意識を朦朧とさせていきました。
太陽が水平線に沈み、空が群青色に変わる頃には、わたしの身体は快楽でドロドロに溶かされていました。そのまま夜の帳が下りたテラスで、第二幕が始まりました。
「ここなら誰にも邪魔されない。まゆちゃんの声を、波の音が全てかき消してくれる」
デイベッドに押し倒され、星空の下で脚を開かされます。波の音が、ザザァ、ザザァ、と激しく打ち寄せています。そのリズムに合わせるように、ノアさんがわたしの中を突き上げてきます。
「ノアさん! ノアさんっ! ああっ!」
部屋の中とは違う開放感と背徳感。暗い空に向かってあえぎ声を上げるたびに、自分が人間ではなく、ただの自然の一部、快楽を受け入れるだけの器になったような錯覚に陥りました。
*
2日目の朝。
目覚めると、隣にノアさんの姿はありませんでした。広大なキングサイズのベッドに一人。身体を起こそうとすると、腰から太ももにかけて、ずしりとした鈍い痛みが走りました。
「っ……いた……」
昨夜のテラスでの激しい情事。波音にかき消されるからと、何度も何度も絶頂に導かれ、限界を超えて脚を開かされた名残です。でも、その痛みさえも、わたしがノアさんに愛された証拠のように思えて、自然と頬が緩んでしまいます。時計を見ると、もう10時を回っていました。
「いけない、朝ごはん作らなきゃ!」
わたしは今回の合宿に「リゾートバイト」という名目で来ています。ノアさんの身の回りのお世話をするのが建前上の仕事。寝坊なんてしていられません。
慌ててシャワーを浴び、用意されていたシンプルな麻のエプロンを身につけました。下着の上から直接エプロンをつけるなんて初めてですが、これも制服の一種なのでしょうか。
ヴィラのキッチンは、最新鋭の設備が整ったアイランド型でした。普段あまり料理をしないわたしには、使い方がよくわかりません。冷蔵庫から卵とベーコン、食パンを取り出し、見よう見まねで調理を始めました。
カチャ、カチャ。ボウルで卵を溶く音を、静かなリビングに響かせます。手元がおぼつきません。立っているだけで、ガクガクと膝が笑ってしまうのです。昨夜、長時間、無理な体勢を続けた内太ももの筋肉が、悲鳴を上げているようでした。
「きゃっ!」
足の震えを庇おうとして、熱したフライパンに卵を一気に入れすぎてしまいました。ジュワァーッ! という激しい音と共に、油が跳ねます。
慌てて菜箸でかき混ぜますが、火力が強すぎたのか、あっという間に卵が固まって、ボロボロになっていきます。トースターからも嫌な匂いが漂ってきました。
「あっ、パン!」
スクランブルエッグに気を取られている間に、トーストが焦げてしまったのです。慌てて取り出しましたが、時すでに遅し。食パンの表面は見るも無残に炭化し、真っ黒になっていました。スクランブルエッグも、ふわふわとは程遠い、茶色く焦げ目のついた硬い塊になってしまいました。
「どうしよう……こんなの、出せない……」
失敗作を前に、わたしは立ち尽くしました。ノアさんは完璧な人です。食事だって、いつも最高級のものを食べているはず。こんな不味そうなゴミみたいな料理を出したら、きっと幻滅される。捨てて作り直そうか。でも、食材は限られているし……。
「いい匂いだね。おはよう、まゆちゃん」
背後から声をかけられ、心臓が跳ね上がりました。いつの間にかテラスから戻ってきたノアさんが、キッチンカウンター越しに微笑んでいました。
「あ、あの、おはようございます! でも、その……ごめんなさい!」
わたしは反射的に謝り、お皿を隠そうとしました。
「失敗しちゃって……焦がしちゃったんです。すぐに捨てて、作り直しますから!」
「捨てなくていいよ。せっかくまゆちゃんが作ってくれたんだ。さあ、あっちで食べよう」
「えっ、でも……」
ノアさんは私の手からお皿を優しく取り上げると、そのままテラスのテーブルへと運んでしまいました。
青い海と空。真っ白なテーブルクロス。そこに置かれた、黒焦げのトーストと、ボロボロの炒り卵。その対比が惨めで、わたしは泣きそうになりながら席につきました。
「いただきます」
ノアさんは躊躇なく、真っ黒なトーストを手に取り、大きく一口かじりました。
カリッ、ジャリッ。
乾いた音がして、焦げたパン屑がテーブルに散らばります。苦いに決まっています。美味しいはずがありません。それなのに、ノアさんは嫌な顔一つせず、ゆっくりと咀嚼し、飲み込みました。
「……苦く、ないですか?」
恐る恐る尋ねるわたしに、彼は穏やかに微笑みました。
「苦いよ。とてもね」
「え……ですよね……真っ黒だし……ごめんなさい」
「でもね、これは、まゆちゃんが僕のために、その震える脚で一生懸命立って、作ってくれた料理だ」
ノアさんの視線が、エプロンの裾から覗く、小刻みに震えるわたしの太ももに向けられました。すべてお見通しだったのです。わたしが昨夜の行為でボロボロになっていることも、それでも彼のためにがんばってみたことも。
「まゆちゃんの献身というスパイスが効いている。だから、この苦さは、僕にとって、とても価値がある味なんだよ」
そう言って、彼は硬くなったスクランブルエッグも綺麗に平らげてくれました。お皿に残ったのは、パンの焦げ屑だけ。わたしは胸がいっぱいになり、視界が滲みました。
怒られると思っていたのに。
呆れられると思っていたのに。
この人は、わたしの失敗さえも「愛」として受け入れてくれる。
――嬉しい
――もっと、この人の役に立ちたい
完璧な家事ができることよりも、不完全でも彼に尽くそうとする姿勢が愛される。その優しい肯定感が、わたしをさらに深い依存の沼へと引きずり込んでいきました。
「ごちそうさま。さて、エネルギーも補給できたことだし」
空になったお皿を置くと、ノアさんの瞳が熱を帯びました。
「次はまゆちゃんが『仕事』をする番だ。……そのエプロンを脱いで、新しい水着に着替えようか」
甘い朝の時間は終わり。
ここからは、2日目の甘く激しいレッスンの始まりでした。
*
日差しが最も強くなる時間帯。ノアさんから新しい水着を受け取った瞬間、わたしは言葉を失いました。それは「水着」と呼ぶにはあまりにも布面積が少ない、純白のマイクロビキニだったのです。

「ノアさん……これ、ほとんど紐……です」
「昨日は『青』でまゆちゃんの気品を描いた。今日は『白』だ。この色は嘘がつけない。まゆちゃんの肌の赤み、興奮、すべてを透かして見せてくれる。それに、この紐のようなデザイン、まゆちゃんという僕へのプレゼントを包むリボンみたいじゃない?」
そんな屁理屈に言いくるめられて、わたしは更衣室でその白い布切れを身につけました。鏡に映る姿は裸よりも淫らでした。
極小の三角形は乳首と秘部を辛うじて隠しているだけで、白い肌のほとんどが露出しています。腰の細い紐は、指一本で簡単に解けてしまいそう。
恥じらいに頬を染めながらプールサイドに出ると、ノアさんは満足げに頷きました。
「素晴らしい。やはり白はまゆちゃんのためにある色だ。……さあ、水に入ってごらん。白が肌に溶けていくよ」
言われるがままにインフィニティプールへと足を踏み入れます。ひやりとした水が腰まで浸かり、やがて胸元まで達しました。 その瞬間、水を吸った純白の布地が、瞬く間に透明な膜へと変わり、肌にピタリと張り付きました。
そこには、隠しようのない鮮やかな色のコントラストが浮かび上がっていました。 濡れて透き通った白の下から覗くのは、上気したわたしの肌の、淡い桜色。冷たい水に刺激されてキュッと硬くなった乳首は、熟した果実のような濃いピンク色に染まり、それを支える頼りない白い紐との対比が、残酷なまでにその色を際立たせていました。
「隠さないで! その色彩、最高に美しいよ」
ノアさんがカメラを構え、夢中でシャッターを切り始めました。
カシャッ、カシャッ!
ファインダー越しに彼が見つめているその熱っぽい視線に、わたしはハッとしました。
彼は今、単にいやらしい目で見ているだけじゃない。 白と桜色、そして濃いピンク。 彼が愛でているのは、濡れた布と肉体が織りなす「色彩の美しさ」そのものなのだと、直感的に理解したのです。
――わたしは今、ノアさんのキャンバスになっている。
そう意識した瞬間、隠そうとしていた手が自然と離れました。見られている羞恥心よりも、彼の作品の一部として「美しくあること」への陶酔が、わたしの胸を熱く焦がしていきました。
わたしはプールの中で、自分の胸が透けていく鮮やかな色を、彼に見せつけるようにポーズを取り続けました。
撮影の後、濡れた身体のまま、日陰のデッキチェアへと移動しました。
「まゆちゃんの胸は昨日のオイルマッサージで十分に下地ができている。今日はさらに感覚を鋭くしようね」
ノアさんがサイドテーブルに置いたのは、氷がたっぷり入ったシルバーのボウルと、無骨な洗濯バサミでした。
「氷……?」
「そう。冷やすことで感覚を麻痺させ、その後の刺激をより鮮烈にするんだ」
ノアさんは氷を一つ摘むと、濡れて透けているわたしの胸元に這わせました。白い水着の隙間から、冷たい氷が滑り込みます。
「ひゃうっ!」
敏感な乳首に直接氷が触れて、思わずわたしはビクッと反応していました。冷たい。痛いほどに冷たい。氷は体温で少しずつ溶け、冷水となって胸の谷間を伝い落ちていきます。
「うっ、くぅ……冷たい、です」
「我慢して……十分に冷えて、硬くなってきたね」
感覚がなくなるほど冷やされた乳首は、小石のように硬く勃ち上がっていました。ノアさんはそこで氷を捨て、代わりに洗濯バサミを手に取りました。
「ここからが本番だ」
パチン。
麻痺した乳首が、プラスチックの無機質な力で挟まれました。最初は圧迫感だけでした。氷の冷気が引いていき、血液が戻ってくるにつれて、状況は一変しました。
「んっ、ぐ、ぁ……っ!?」
じわじわと、しかし確実に、挟まれた部分から熱い痛みが湧き上がってきたのです。昨日のレッスンで敏感になっていた神経が、痛みと快感を混線させ、脳に強烈な信号を送ります。
「痛いかい? それとも、熱いかい?」
ノアさんは楽しそうに問いかけながら、今度は水着の紐に指をかけました。首の後ろで結ばれた、華奢な紐。それをグイ、と下に引っ張ります。
「ああっ! だめ、引っ張らないでっ! 乳首が、ちぎれちゃうっ!」
水着が引っ張られるたびに、布地が乳房を押しつぶし、その圧力で洗濯バサミがさらに強く食い込みます。
水着の紐と、洗濯バサミ。二方向からの責め苦。逃げ場のない刺激に、わたしはデッキチェアの上で足をバタつかせました。
「いい声だ……。まゆちゃんのその反応が、この白い水着を何倍も美しく見せているよ」
ノアさんは意地悪く、さらに紐を強く引き絞りました。極限まで張り詰めた白い紐が、わたしの柔肌に食い込みます。胸への刺激だけなのに、下腹部がキュンキュンと疼き、濡れた水着のクロッチには、愛液の染みが広がっていきました。
「ノアさん、もう、許して……おかしく、なるぅ……っ!」
快感と痛みの波に翻弄され、わたしは白目を剥いて悶絶しました。白いマイクロビキニは、もはやファッションではなく、わたしを快楽の底へ繋ぎ止める愛の鎖となっていました。
「気持ちよくなってきた?」
「わ、わかんない……痛い、のに……熱い、のに……気持ち、いいっ!」
「そう、それでいい。痛みも快楽も、すべては脳の信号だ。まゆちゃんは今、その全てを悦びとして受け入れ始めている」
パチン。
ノアさんが洗濯バサミを外しました。その瞬間、堰を切ったように血液が流れ込み、強烈なジンジンとした痺れが乳首を襲いました。
あまりの刺激に、わたしは背中を反らせ、無言の絶叫を上げました。足の指先が縮こまり、太ももの内側が痙攣します。胸を触られているだけなのに、下腹部が洪水のように濡れていきます。
「ご褒美だ」
ノアさんが、赤く腫れ上がったわたしの乳首を、口に含みました。ざらりとした舌の感触。今のわたしには、その僅かな刺激さえもが、稲妻のような衝撃でした。
「んぃっ! あ、ああっ! イクっ、胸でイっちゃうぅっ!」
身体が激しく跳ねました。子宮が収縮し、目の前が真っ白に弾けます。性器に触れられていないのに、胸への刺激だけで絶頂に達してしまったのです。
「胸だけでイってしまうなんて、まゆちゃんはなんてエッチな子なんだ……」
荒い息を吐くわたしを見下ろし、ノアさんは満足げに微笑みました。その笑顔を見れただけで、酷いことをされたはずなのに、わたしは褒められた『Pet』のように安堵し、喜びを感じていました。
でも、これで終わりではなかったのです。身体が熱を持ったまま、紐の白い水着をきちんと着させられての撮影会が再開されたのです。
「いいよ、その表情! もっと濡れた目でこっちを見て」カシャカシャカシャッ!
「胸を張って。まゆちゃんの武器であるそのバストラインを強調するんだ」カシャカシャカシャッ!
青空の下、煽情的な水着での、ほぼ全裸での撮影。いくらプライベートヴィラとはいえ、誰かに見られるかもしれないという恐怖心は消えません。
でも、望遠レンズで覗き込むノアさんの視線に射抜かれると、不思議と「もっと淫らなまゆを見て」という欲求が心の奥から湧き上がってくるのです。
「プールサイドに手をつき、お尻を突き出して!」カシャッ!カシャッ!
「仰向けに浮かび、胸を天に向かって晒して」カシャッ!
わたしは言われるがままに、あられもない姿をカメラのレンズに晒し、秘所を濡らし続けるのでした。
*
その2日目の夜。
昼間の過酷なレッスンを終え、シャワーで汗と愛液を洗い流したわたしは、ノアさんに用意された衣装に着替えさせられました。深いミッドナイトブルーのシルク・ロングドレス。
正面から見ると上品なデザインですが、背中は腰のくびれまで大胆にカットされ、大きく露出しています。ブラジャーをつけることは許されず、擦れて痛む乳首にはシルクが直接触れる仕様でした。
ダイニングルームに入ると、そこは高級レストランそのものでした。照明が落とされ、テーブルにはキャンドルの炎が揺らめいています。
ノアさんが椅子を引き、わたしを座らせてくれます。テーブルに並ぶのは、地元の食材をふんだんに使った芸術的なコース料理でした。並べられている料理の美しさに、わたしは息を呑みました。
「すごい! これ、全部ケータリングなんですか?」
「ああ。西伊豆で隠れ家フレンチを営んでいるシェフに頼んで、下ごしらえしたものを届けてもらったんだ。仕上げは僕がやったけれどね」
前菜は、『地魚と夏野菜の宝石箱』。
旬のスズキを薄くスライスしてマリネにし、松崎特産のトマトやオクラ、ズッキーニと共に、透明なコンソメジュレで固めた一皿です。口に運ぶと、ひんやりとしたジュレが舌の上で溶け、スズキの淡白な甘みと夏野菜の酸味が広がります。
「美味しい! こんなに透き通った味、初めてです」
「スズキは今が旬だからね。朝のまゆちゃんのスクランブルエッグも味わい深かったけれど、こういう洗練された味もまた、格別だろう?」
ノアさんの言葉に、わたしは恥ずかしさで俯きました。朝の黒焦げのトーストと、この宝石のような料理。その対比が、わたしがいかに未熟で、ノアさんがいかに素敵な大人かを教えてくれているようでした。わたしはただ、彼に愛され、守られている幸せな『Pet』なのだと。
続いて運ばれてきたのは、『那賀川産・天然鮎のコンフィ 蓼(たで)のヴィネグレットソース』。松崎の中心を流れる清流・那賀川で獲れたばかりの鮎を、低温の油でじっくりと煮込んだ料理です。
「鮎……ですか? フレンチで出るなんて珍しいですね」
「この時期の松崎といえば鮎だよ。頭から骨まで、すべて柔らかく食べられるように調理してある」
ナイフを入れると、ホロリと身が崩れました。口に入れると、香ばしい皮目と、しっとりとした身の旨味が広がります。最後に、内臓(ワタ)のほろ苦さが舌を刺激しました。
「っ……少し、苦いです」
「それが大人の味さ。昼間のレッスンと同じだよ」
ノアさんがグラスを傾けながら、意味深に微笑みました。
「苦味や痛みは、単体では不快なものかもしれない。だが旨味や快楽と合わさることで、より深い奥行きを生むスパイスになる。まゆちゃんの身体も、今日のレッスンでそのことを学んだはずだ」
ズキリ。
言葉と共に、ドレスの下の乳首が疼きました。昼間、氷と洗濯バサミで虐め抜かれた場所。
今はシルクに優しく包まれているだけなのに、あの時の痛みと、その後に訪れた強烈な絶頂の記憶がフラッシュバックし、鮎の苦味と共に身体の奥を熱くさせました。
「……この苦味があるからこそ、美味しさが増すのですね」
わたしは潤んだ瞳でノアさんを見つめ、その苦い身を飲み込みました。苦痛さえも快楽に変える。それは、わたしがこの合宿で身につけつつある、恐ろしく甘美な能力でした。
メインディッシュは、『伊豆牛フィレ肉のロースト トリュフの香り』。
希少な伊豆牛の赤身肉は、ナイフが不要なほど柔らかく、噛むたびに濃厚な肉汁が溢れ出します。朝の惨めな失敗が嘘のように、極上の美食でお腹も心も満たされていきました。
「満足したかい?」
「はい……夢みたいです。こんなに素敵な食事、一生忘れられません」
「それはよかった。……では、デザートは場所を変えて楽しもうか」
ノアさんがナプキンを置き、立ち上がりました。その瞳は、いつもの優しい紳士のものではなく、わたしを求める情熱的な色を帯びていました。
「まゆちゃんという最高級のデザートを味わうには、ベッドの上の方が相応しいからね」
わたしは頬を染め、震える足で立ち上がりました。胃袋を満たした後は、別の場所を満たされる時間。
松崎の二日目の夜は、まだ始まったばかりでした。
*
ノアさんは一晩中、わたしの胸と羞恥心をレッスンし、優しく、時に激しく抱き続けました。場所はテラスだったり、リビングのソファだったり、浴室だったり。
海が白み始める頃には、ノアさんに見つめられるだけで乳首がそそり立ち、その乳首にふっと息を吹きかけられるだけでビクンビクンと震えてしまうようになっていました。
すっかり日が昇ってから目覚めた3日目の朝。迎えの車が来るまでの間、わたしはテラスに出て、海を眺めていました。
来た時と同じ、美しい駿河湾。でも、わたしの目に映る景色は来る前とは違って見えました。海の色も、空の青さも、すべてが鮮やかで、そしてどこか官能的に美しく見えるのです。
「名残惜しいかい?」
後ろからノアさんに抱きすくめられました。その体温に身体が反応してしまいます。
「はい……帰りたくないです。ずっとここにいたいです」
「ふふ、可愛いことを言うね。でも、これはまだ第一段階だ。次はもっと涼しい場所で、もっと深いレッスンが待っているよ」
もっと深いレッスン。その言葉に、恐怖よりも期待で胸が高鳴りました。
――次は何をされるんだろう
――どんな風に、わたしを変えてくれるんだろう
「さあ、行こうか。僕のお気に入りのアゲハ蝶さん」
ドアを開けていただいた迎えの車にノアさんとともに乗り込み、夢のような時間を過ごしたヴィラを後にします。
「あれは本当にあったことなのかしら?」
そうひとりごちて身体に目をやると、ロイヤルブルーの水着の日焼け跡が、うっすらと肌に残っています。それは、わたしがこの3日間、この夢のような場所でノアさんにひたすら愛され続けたことの証でした。
わたしはほっとして、ノアさんにもたれかかって穏やかな眠りの世界に落ちていきました。