タクシーの車窓から流れるマカオの景色は、昼間の牧歌的な雰囲気とは打って変わり、妖しくも美しい輝きを放っていました。
ライトアップされたマカオタワー、海上に架かる巨大な大橋、そして極彩色のネオンを纏ったカジノリゾート群。
ウェイロンはスマートに私をエスコートし、SNS映えしそうなスポットを巡っては、恋人同士のように寄り添って写真を撮ってくれました。
ファインダー越しの二人は、どこからどう見てもお似合いのカップルに見えたことでしょう。
車を降り、湾湖の遊歩道を歩く頃には、私はロマンチックな夜景と彼の甘い言葉にすっかり酔わされていました。
夜風が心地よく肌を撫でます。
人影がふと途切れた瞬間、繋いでいた手を強く引かれ、私は彼の胸の中に閉じ込められました。
「ん……っ」
有無を言わさぬ口づけでした。
唇を貪られ、侵入してきた彼の舌に、私は待っていたかのように自分の舌を絡ませてしまうのです。
恍惚とする私の背中に回された彼の手が滑るように下がり、臀部を愛おしげに撫で回します。
赤いミニワンピースの裾がわずかに捲れ、彼の指先がショーツの布地に触れました。
今日、この時のために新調したワインレッドのシルクサテン。アンダーヘアも丁寧に処理したばかりです。
「……やめて、ロン。こんなところじゃ……」
口では拒絶しても、私の手には力が入りません。
それどころか、もっと触れて欲しいと身体が熱く疼き、蜜が溢れるのを自覚してしまうのです。
恥ずかしさを誤魔化すように、私は彼に情熱的なキスを返しました。
本能に支配されつつある私を知って欲しい。一緒に昂って欲しい。
そんなあさましい願いを込めて。
長い口づけが終わると、ウェイロンは満足げに微笑みました。
「可愛い人だ。ではミレイ、そろそろメインディッシュを味わいに行きましょうか」
私は何も言わず、彼の手を握り返しました。
胸の鼓動が激しすぎて、言葉にならなかったからです。
私たちがプレジャーボートに乗って向かったのは、香港とマカオの沖合いに浮かぶ小さな島でした。
所々に明かりが漏れるその島こそが、選ばれた人間しか入れない会員制の「サロン」だといいます。
船を降り、岩盤をくり抜いたようなトンネルの中にある豪華なエスカレーターに乗ります。
期待と、ほんの少しの恐怖。
たどり着いたメインフロアの光景が、すべての不安を吹き飛ばしました。
高い天井から吊り下がる巨大なシャンデリア。
重厚なガラスのテーブルセット。
生演奏のバンドと、その間を泳ぐように行き交う洗練されたスタッフたち。
まるでハリウッド映画のパーティ会場のような、ゴージャスな世界がそこには広がっていたのです。
「島内で最も高く、眺めの良い場所にある展望ラウンジです」
ウェイロンの言葉通り、大きな窓の向こうには、海を隔ててマカオの夜景が宝石のように煌めいています。
そこからの数時間は、まさに夢の中の出来事でした。
夜景とマジックショーを眺めながらいただく極上のフレンチとワイン。
食後は回廊を抜けて、併設されたカジノルームへ向かいました。
初めてのルーレットに、ブラックジャック。
バニーガールが勧めてくる甘いカクテルに酔い、ウェイロンの応援に乗せられて強気に勝負した結果、ビギナーズラックで元手が倍になった時の高揚感。
最後の大勝負で負けてしまったけれど、悔しさよりも「遊びきった」という爽快感の方が勝っていました。 堅実な主婦だった私が、一夜にしてギャンブルの熱に浮かされるなんて……。
「あーあ、負けちゃった。でも十分楽しめたわ。これも夢の代金ね」
「ふふ、彼らもプロですからね。そう簡単には勝たせてくれませンよ」
私たちはギャンブルの熱を冷ますため、静かなベランダ席へと移動しました。
夜風に吹かれながら、甘くて温かいアイリッシュコーヒーを傾けます。
隣には、優しく微笑む理想の男性。
この時間が永遠に続けばいいのに。心からそう思いました。
「さて……」
ウェイロンが空になったグラスをコト、とテーブルに置きます。
その仕草だけで、私の心臓がトクンと跳ね上がりました。
カジノの熱狂とは違う、甘く湿った熱が下腹部に蘇るのを感じます。
「夜風に当たって、少し身体が冷えてしまいましたね。そろそろ二人きりの場所へ行きましょうか。とっておきのスイートを用意してありますから」
「ええ……お願い、ロン」