第1部:篭絡「35歳の情事4」

 司はそう告げると、再び彼女の股間へと顔を埋めた。剥き出しになったばかりの敏感な突起を、鋭い舌先でピンと弾く。毛という緩衝材を失った粘膜に、男の生々しい口腔の粘り気が直接絡みつき、優子は逃げ場のない快楽に翻弄された。

「あぁっ……! だめ、司くん……っ!」

 司は逃がそうとしない。執拗に、吸い上げるようにして彼女の嘘を暴いていく。優子の内側から、お湯とは明らかに粘度の違う、熱を帯びた愛液が次々と溢れ出した。

「嘘つきですね。お湯がこんなに甘いわけがない」

 核心を突く司の言葉責めに、優子のプライドは完膚なきまでに叩き潰された。
「……ごめんなさい、司くん……っ。ごめんなさい……あ、あああぁっ!」

 許しを乞うように声を上げながら、優子は己の意思とは無関係に跳ね上がる腰を抑えられず、剥き出しの快感に貫かれて絶頂に達した。司の口内で、彼女の「女」としての敗北を告げる蜜が、止めどなく溢れ続けていた。

 司は湯船の縁に腰をかけ、自身の昂ぶる肉棒を優子の目の前に突きつけた。

「優子さんばかり気持ちよくなって、ずるいですよ。次は僕を気持ちよくしてください」

 有無を言わせぬ響きを含んだその要求に、優子は逆らう術を持たなかった。先ほどまでの情事の際、お掃除フェラとして口に含んだときは意識が朦朧としていたが、改めて眼前に迫るそれは、かつての夫のものとは比較にならない圧倒的な存在感を放っていた。

 優子は誘われるように、司のシンボルへと顔を近づけ、まじまじと観察した。

 まず目を引いたのは、先端の形状だった。力強く反り返ったカリの縁は、まるで意志を持っているかのように分厚く、猛々しい威圧感を持って彼女を威嚇している。そこから根元にかけて、不規則にのたうつ血管が太く浮き上がり、若さゆえの荒々しい血流を誇示していた。

「……すごい」

 思わず零れた感嘆。肌の色は精悍な黒光りを帯び、湿った浴室の灯りを鈍く反射している。優子がおそるおそる指先を這わせると、指腹に伝わってきたのは、ドクンドクンと一定のリズムで打ち寄せる力強い脈動だった。

 手のひら全体で包み込めば、火傷しそうなほどの熱と、岩のような硬度が伝わってくる。夫というひとつの形しか知らなかった優子にとって、それは未知の、暴力的なまでに雄々しい「男」そのものだった。

 鼻を近づけると、司自身の濃厚な匂いが立ち昇ってくる。若々しい精気と、男特有のむせ返るような香りに、優子の脳内は麻痺した。

 抗えない衝動に突き動かされ、先端へ舌を這わせる。舌先に絡みつく、鉄分を含んだような独特の味。それが司という個体のエッセンスであると感じ、優子の下腹部が激しく疼く。
 かつての夫には感じることのなかった、抗いがたい支配的な雄の気配。優子は圧倒されながらも、必死にその先端を舌で転がした。

 だが、経験の少なさは隠しようもなく、その動きはぎこちなく、ただ表面をなぞるばかりで司を満足させるには程遠い。

「優子さん、もしかしてやり方、わかってないんですか?」

 司の冷ややかな指摘に、優子は顔を上げた。口の端から銀色の糸を引き、頬を赤く染めて俯く。

「ごめんなさい。昔、主人に2,3回しただけで……どうすればいいのか、本当にわからなくて……」

「それなら僕が教育してあげます。口を開けて」

 司の指導が始まった。彼は優子の後頭部を掴み、自身の欲望をどう扱うべきか、一つひとつ支配的に命じていく。

「まずはそこ、カリの裏側です。そこが一番神経が集まっている。舌を尖らせて、弾くように。……そう。次は竿を包み込むようにして、袋の方まで舌を伸ばしてください。男はそこを転がされるのに弱いんです」

 言われるがままに、優子は必死に食らいついた。

「ほら、目は逸らさない。上目遣いで、僕がどんな顔をしているか見ながら……『司くんのここ、すごく熱くて硬いです』って、言いながらしゃぶるんです」

「つかさくんの……ここ……すごく、あつくて……っ、かたいです……」

 羞恥に塗れたセリフを吐かされながら、優子は次第にフェラチオ奉仕に没頭していった。

 教えられた通りに手を添えて、硬い竿を上下に扱き、口腔の粘膜でその熱を余すところなく絡め取る。優子が懸命に首を動かすたび、彼女の首筋でゴールドのチェーンが細く光り、ガーネットが胸元で控えめに揺れた。

「いいですよ、優子さん。そのまま、奥まで。もっと、喉の奥を突かせるようにして」

 司の呼気が荒くなり、腰が小さく突き出された。優子は、自分の中に異物が深々と侵入してくる感覚と、喉を直接刺激される苦しさに混じる快感でトランス状態へと陥っていく。

「出る!」

 司の短い警告と同時に、優子の口内へ熱い塊が勢いよく迸った。

「んぐっ……!? んんんっ!」

 あまりの量と、喉を焼くような強烈な刺激に、優子は驚愕して司を突き飛ばすように口を離した。反射的に、受け止めきれなかった白い液体を床へと吐き出してしまう。

「……っ、げほっ、げほっ……! な、なに、これ……こんなに、たくさん……」

 司は驚きに肩を震わせる優子のそばへ膝をつくと、困ったように眉を下げ、優しく彼女の背を撫でた。

「優しい優子さんなら、ちゃんと飲んでくれると思ったんだけどなぁ。でも、初めてにしては上出来だよ。僕も、あまりに気持ちよくて我慢できなかったから」

 司の声音はどこまでも穏やかで、落胆を隠しきれないといった様子だった。その優しさに包まれた失望こそが、優子の胸を激しく締め付ける。

「ごめんなさい……っ、司くん。私、次は、次はもっと頑張るから……!」

 優子は自分から司に縋り付くように謝罪した。失態を挽回したい一心で、彼女は床に散ったものを見ないようにし、司のシンボルへと再び顔を寄せた。そして、丁寧に、慈しむように舌を這わせ、隅々まで自分の中の汚れを拭い去るようにお掃除を始めた。

 司はその献身的な姿を、愛おしげな表情で見つめながら、内心では冷ややかに毒づく。

(ちょろいな。優しさを少し見せるだけで、自分から進んで犬のように奉仕し始める。この人には、生まれ持った奉仕の素質があるよ)

 司は満足げに優子の頭を撫で、掃除を終えた彼女の耳元で囁いた。

「僕をずっと感じながら帰宅してほしい。だから、口はすすがないで」

「えっ……でも……」

「僕との約束、忘れたんですか? 協力してくれるって」

 有無を言わせぬ響きに、優子は喉の奥に残る生臭い感触を飲み込み、小さく頷いた。

 2人は風呂から上がると、優子は司の残滓を口内に含んだまま、急いで帰り支度を始めた。鏡を見る余裕もなく、乱れた髪をまとめ、服を着る。

 今日35歳を迎えた身体に刻まれた司の指跡と、口の中に残る彼の味。それらすべてを抱えながら、優子は家族の待つ日常へと戻るため、焦燥感に急かされながら準備を進めた。

 30分後。ドレッシーな装いに戻り、完璧に主婦の仮面を被り直した優子は、司の高級マンションを後にした。鎖骨の間で揺れるガーネットが冷たく肌を叩き、つい先ほどまでその場所を司の熱い指が、舌が蹂躙していた事実を思い出させる。

 駅へと向かう道すがら、冬の凛とした夜空を仰ぐ。歩くたびに、股の間に残る鈍い重みと、鼻腔にわずかに残る司の匂い、そして胎内に注ぎ込まれた熱い種子の名残が、彼女の意識を司との濃密な情事に引き戻す。

「……協力するだけよ」

 そう自分に言い聞かせる唇が、司との深いキスの熱を思い出す。

 帰宅すれば、そこにはいつも通りの冷めた日常が待っている。けれど、今の優子の身体には、35歳の誕生日に刻まれた、消えることのない淫らな刻印が、密やかに疼き続けていた。

 帰宅した優子は喉の奥に張り付く司の生々しい余韻を飲み込みながら、玄関を潜った。

「ただいま……」

 返ってきたのは、リビングから聞こえるテレビの音と、スマートフォンのゲームに没頭する高1の息子、秀哉(ひでや)の無機質な反応だけだった。

「あ、お帰り。母さん、今日の飯、何?」

 秀哉は母親と目を合わせることすらしない。35歳の誕生日、この日のために優子がどれだけ自分を律して家政婦の役割を果たしてきたかなど、彼には関係のないことだった。プレゼントどころか、「おめでとう」のひと言すら、少年の意識には存在していない。

 キッチンへ向かうと、夫の賢治がテーブルに座り新聞を広げていた。彼は優子が帰宅したことにも、その頬の紅潮や、どこか落ち着かない様子の異変にも一切気づく気配がない。

「遅かったな。パート、そんなに長引いたのか? 腹減ってるんだ、早く夕飯にしてくれ」

 賢治の言葉にも、妻への労いも、今日という日を祝う色彩も、微塵も含まれていなかった。優子にとっての15年は、この男にとって「当たり前の家事代行」を享受する期間でしかなかったのだ。

(……ああ、やっぱり。私はこの家では、ただの家政婦なのね)

 優子は、胸を締め付ける虚無感と悲しみに耐えながら、エプロンの紐を結んだ。

 司に命じられた通りにすすがなかった口内に、意識を集中させる。唾液に混じって蘇る、司の若々しく暴力的な精気の味。自分を「女」として暴き、支配し、必要としてくれたあの熱い時間。

(司くんはあんなに私を求めてくれた。私の身体を、私自身を、あんなに熱心に……)

 目の前で無関心を決め込む夫と、自分をただの飯炊き女のように扱う息子。その冷え切った日常との対比が、司の与えてくれた背徳的な多幸感をより一層鮮明に際立たせていく。

 包丁を握る指が躍る。身を屈めて野菜を取り出す際、エプロンの内側で贈られたネックレスが揺れ、ガーネットが冷たく胸元をなぞった。剃られてつるつるになった下腹部が疼く。

 早く、また会いたい。夫も知らない秘密を作り上げた、あの残酷で優しい少年に会いたい。

 優子は、口の中に残る司の残滓をもう一度深く飲み込み、家族に背を向けたまま、切実なまでの渇望に身を焦がした。

 夕食の後片付けを終えた優子が自室に戻ると、待っていたかのように司からラインが届いた。

「無事に帰れましたか?  優子さんが、家族と幸せな誕生日の夜を過ごせているといいのですが」

 その白々しくも優しい問いかけに、優子の心は折れた。

「現実はそんなに甘くないわ。2人とも私の誕生日なんて忘れて、夕飯の催促ばかり。司くんがあんなに祝ってくれたのが、嘘みたい」

「ひどいな。あんなに素敵な優子さんを放っておくなんて、僕には信じられない。僕なら、1分1秒だってあなたを寂しくさせないのに」

 司の甘い言葉の数々が、夫と息子の無関心で空いた心の穴を埋めていった。

 夜のリビングで、司はゆっくりとワインを注ぎ足した。バスルームに漂う彼女の残り香と、肌に染み付いた経産婦特有のしっとりとした熱を反芻し、薄暗い部屋で1人、愉悦に浸る。

「期待以上だったな、35歳のおばさんなのに」

 司を突き動かしているのは、半年前に受けたあの屈辱だ。社会学の講義で、理不尽なまでの『不可』判定を突きつけてきた佐伯賢治。あのアカデミックな選民意識に凝り固まった准教授を、司は心の底から軽蔑し、同時にそのプライドを徹底的に破壊することを誓った。

(学内じゃあ高潔な『おしどり夫婦』なんて面してるが、裏じゃ風俗通い。家では優子さんを家政婦扱いして、15年も女として見ずに放置……。賢治さん、あんたは本当に愚かだ)

 悪友から賢治の裏の顔を聞き出し、この半年の間、司は優子に計画的に接近した。優子の寂しげな瞳から、彼女が家庭でどれほど蔑ろにされているかを直接聞き出した時、司の復讐計画が具体的に描かれた。

(決して裏切らないと思い込んでいるこの女を、俺なしでは生きられなくして裏切らせてやる、心も身体も。それが、エリート准教授のケチなプライドにすがって生きるお前へ対する、最高の報復になるからな)

 医大生としての冷めた観察眼が、その計画をさらに愉悦へと変えていく。

(優子の肌は吸い付くようにしっとりとしていた。出産を経験し、一度大きく拡張された後に再構築されたあの包容力。血管網が発達した経産婦特有の、ドロりとした肉の熱量と深い脈打ちは、同世代の若い女の身体じゃ、絶対に味わえない)

 だが、そんな司の奥底では、司の深層心理が激しく疼いている。

(行かせない。今度は、絶対に)

 司が閃いたそれは、自分を捨てた母親への復讐であり、同時に「二度と自分を捨てさせない母親」を自らの手で完成させるという狂気的な計画だった。

(まずは優子を完全に俺の女にする)

 司は、優子の僅かな残り香を感じながら、未来の愉悦にひとり酔いしれた。

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