口の中の銀色の楔

 数日後。
  私は、路地裏にある薄暗いピアススタジオの施術台に横たわっていた。
 隣にはマスターが立っている。

「本当にいいんだな? 一度開ければ、跡は残るぞ」
「構いません。私の舌は、もう議論するためのものではありませんから」

 私は大きく口を開き、舌を突き出した。
 これから行われるのは、私が普通の女子大生を辞めるための聖なる儀式だ。

「力を抜けよ」
 彫り師の男が、鋭いニードルを構える。
 ズプッ。
「――んぐッ!!」

 舌の中央を金属が貫く感触。
 走る激痛。
 口の中に鉄の味が広がる。
 けれど、それさえも快感だった。
 これが「彼専用の穴」であるという証拠だから。

 装着されたのは、太いバーベル型のピアス。
 両端の銀色のボールが、口の中で冷たく、重く主張する。
 鏡を見ると、腫れ上がった舌の中央に異質な金属が埋め込まれていた。
 かつて優等生として流暢な言葉を紡いでいた私の舌は、今や異物を咥え込むためだけの卑猥な器官に成り果てていた。

 「喋ってみろ」
 「はい、マフター……」
 腫れと異物のせいで、うまく呂律が回らない。
  間抜けな発音。
  それでもマスターは満足そうに目を細めた。
「いいザマだ。知的な環は死んだ。ここにいるのは、舌に淫らな飾りをつけた牝犬だ」

 彼はズボンのチャックを下ろした。
 「使えるか試してみよう」
  私は腫れた舌の痛みを喜びながら、膝をついた。

 口を開き、彼を迎え入れる。
 その瞬間、私の脳髄に電流が走った。
  硬い金属のボールが、彼の敏感な裏筋に当たる感触。
「っ……! なるほど、これは効くな」
  彼の反応が、ダイレクトに舌のピアスホールを通して伝わってくる。

(すごい……)

 私が舌を動かすたびに、カチカチと小さな金属音が鳴るような気がする。
 それは、私の星時間をカウントする秒読みの音。
 腫れ上がった舌で彼を締め上げ、冷たい金属で彼を刺激する。

「んむ……ッ、じゅる、カチ、じゅぼ……ッ」

 私は夢中で頭を振った。
 カズヤとの「普通の幸せ」を捨てたことに、一片の後悔もない。
  苦しい。
 痛い。
 息ができない。
――ああ、なんて幸せなんだろう。

 私は涙と涎にまみれながら、銀色のボールを彼の根本に打ち付けるように、深く、深く飲み込んだ。
 もう二度と、つまらない世界には戻らない。
 この銀色の楔がある限り、私は永遠に、いつでもどこでも彼が求めるままに奉仕する「口内性交人形(オーラル・ドール)」なのだ。

*「アフターエピソード」に続く

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