ゴーン!ゴーン! ゴーン!ゴーン! ゴーン!
銅鑼が5回鳴らされた。
壇上では芽美が全く何も身につけていない姿で鉄柱に吊られていて、その隣に白いタキシード姿の拓海が立っている。芽美と拓海の斜め後方には真理愛と亜理紗が膝まづいていて、鉄柱の右側、壇の隅にはハサンとアリーが膝をついている。
芽美の瞳はうつろだ。疲れきって意識が飛びそうになっているところを吊られている軽い痛みでなんとか意識を保っているようだ。
神官が登壇し中央で立ち止まって儀式の開始を告げる。
「ーーーーーーーー」
(これより、審判の儀にうつる。)
神官は自身の左側に吊るされている芽美を左腕をきれいに真っ直ぐ伸ばして指を刺す。
「ーーーーーーーーーーーーー?」
(この者の『容姿』に疑念を持つ者はいるか)
「ーーーーーーーーーーーーー?」
(この者の『淫乱さ』に疑念を持つ者はいるか)
「ーーーーーーーーーーーーー?」
(この者の『従順さ』に疑念を持つ者はいるか)
3つの問いに対して参列者は沈黙を保つ。
「ーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーーーーー!」
(この者は、『容姿』『淫乱さ』『従順さ』の全てが合格水準に達しているものとみなされた。よって、この者の身分は『παιδίσκη』(パイディスケー:下女 )ではなく、『πόρνη』(ポルナイ:街娼)、『ἑταίρα』(ヘタイラ:高級娼婦)、『θεά』(テアー、女神)のいずれかに認定されることが確定した!)
「ーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーーーーー」
(この者の『知性』については、日本の一流大学を卒業していることをもって高いレベルにあるとみなされる)
「ーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーーーーー」
(よってこの者は『貞節』のレベルに応じて、『ἑταίρα』『θεά』のどちらかに認定されることになる)
「ーーーーーーーーーーーー?」
(ここまで、疑念のある者はいるか)
「ーーーーーーーーーーーー!」
(それでは『貞節』の判定にうつる!)
ハサンが神官の目の前に胸の高さほどの小さな台を運んできて、アリーがその上に芽美が稼いだ1円玉が入ったガラス皿を、恭しい仕草で設置する。真理愛がその隣に美しい装飾が施されたエメラルドブルーの小瓶を、同じように恭しく設置する。
「ーーーーーーーー」
(それでは、判定を開始する。)
神官はガラス皿の1円玉を1枚1枚手にとって数えながら隣の小瓶の中へ落とす。この1円は真理愛から芽美に対して、売春の報酬とだけ説明されている。それは間違いではないが、芽美を犯した男達の芽美への満足度と、芽美がマスターである拓海のことを犯されている間も忘れずにいたかどうかという点も加味されて支払われるものだった。
なお1円という金額は儀式上のことで、実際には1円を投入した男は100ドルの寄付をすることになっていて、そこから儀式の開催費用や真理愛達への報酬が支払われることになっている。今回集まった1円玉100枚は“格安売春婦として稼いだ記念”として瓶ごと芽美に渡されることになっている。
「ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー、ー」
10枚数えるたびに、参列者の確認をとり、それが10回続いた。
「ーーーーーーーーーー。ーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーー?」
(この者の『貞節』を評価する証のコインが100枚。よって、この者は『θεά』として認定される!このことに意義のある者はいるか?)
沈黙。
「ーーー、ーーーーーーー、ーーーーーー!」
(それでは、新たなテアーレディとなる者へ、その証を与える!)
神官は真理愛が恭しく捧げ持つ白い箱からマリンブルーの奉書紙に包まれた目録を芽美のマスターである拓海に渡す。後ほど、芽美をテアーに公式に認定したという認定書、『Megumi- ἡδονή-Kirihara』という名前での国民登録証、『θεά』の特権に関する説明書が渡されることになる。
次に神官は、亜理紗が恭しく捧げ持つ赤い箱を開くと、そのまま拓海に差し出す。
「ーーー、ーーーーーーー、ーーーーーー!」
(テアー認定の証として、中のものを身につけさせるがよい!)
中には拓海があらかじめ用意しておいた、今日の誕生石であるダイアモンドを埋め込み、『Megumi- ἡδονή-Kirihara』と裏側に縫い込んだ特注の赤い革の首輪が入っている。
拓海はそれを取り出すと、芽美に近づいて細い首に装着する。カチリという鍵が閉まる音がして、芽美の裸体を真紅の首輪が飾る。
神官が宣言する。
「ーーー、ーーーーーーー、ーーーーーー!」
(今ここに、新たなテアーレディ『Ἡδονή』(ヘドネー:悦楽)の誕生を宣言する!皆のもの、盛大な拍手を持って祝福するがよい!)
静謐だった会場全体から盛大な拍手が巻き起こる。その拍手が収まるのを待って神官が再度祝福を促す。
「なお『貞節』が満点でのテアーの誕生は2年ぶりである。そのことに敬意を表し、なおいっそうの拍手を持って称えよ!」
先ほどよりも大きな拍手だけでなく、ウォーっという歓声までもが巻き起こる。吊り下げられたままの芽美は呆然としていたが、近づいてきた拓海にぎゅっと抱きしめられて耳元で「よくがんばったね」と褒められると、「うん」と返事をして感極まったようにさめざめと泣き出してしまう。
観客席の列席者達は、そんな芽美に温かい視線を送り、落ち着いて泣き止むまで賞賛の拍手をずっと送り続ける。
ようやく泣き止んだ芽美は拓海に緊張の面持ちをむけて、「拓海ご主人様、わたしに『Ἡδονή』の刻印を押して、私をご主人様のものにしてください、芽美、がんばりますから!」と言って、大丈夫というようにぎごちなく微笑む。
芽美の顔は泣いてメイクがぐしゃぐしゃに崩れ酷い有様だったが、拓海は愛奴のそんな健気な表情をだれよりも可愛いと思い、再度抱きしめると一段と力をこめた。