優奈が私を突き放した後も、私はその裏アカウントを知っているという、倫理に反する秘密を抱えていた。優奈の裏アカウントを覗き見るとき、私はいつも薄いラベンダー色のナイトガウンを羽織っていた。その色だけが、優等生としての私自身の優越的な知性と、内面に秘めた倒錯的な願望を同時に肯定してくれた。
『彼』のアカウントは優奈の清純な仮面を信じ、優しく思慮深い言葉を綴っていた。だが、優奈が最終的に「マスター」を選んだという結末を知る私には、その優しさこそが優奈の内側に潜む本物の願望を引き出すための最も周到な「餌」であったことが、論理的な結論として導き出された。
私が本当に求めているのは、「自分で何かを決める」という重い責任からの完全な解放だ。完璧な優等生として生きてきた私にとって、誰か絶対的な存在に「人生のすべてを決定してもらう」ことは最高の救済に思えた。それは私という存在を縛りつけていた「紫色の檻」からの、唯一の脱出経路だった。
意を決して、私はその『彼』のアカウントへ、「私もあなたに支配されたい」という、優等生としてのプライドを賭けた降伏のメッセージを送った。
数時間後、スマホに通知が届いた。それはDMの『彼』が返した甘い言葉ではなく、私の魂を射抜くような、冷たく、一切の妥協を許さない命令だった。
「明日、●●時の電車の3両目で待つ」
心臓が喉の奥で激しく脈打っている。そのメッセージは、『彼』が実は現実のマスターと同一人物であること、そして私のメッセージが彼の「支配計画」に組み込まれたことを無言で証明していた。恐怖と、それを超える背徳的な歓喜が全身を駆け巡る。
(私には優しさなど不要だと、この男は最初から知っていた。優奈とは違う、私自身の最も醜い本質を見抜いた、完璧な戦略だ)
夜が明け、理性の自分を葬り去る決行の朝を迎える。
私は、タンスの奥に仕舞い込んでいた、濃い青と紫が混ざり合うニットワンピースを取り出した。この色は、私の高潔な知性を象徴すると同時に、夜の背徳的な願望を暗示している。そして私は、下着を着用しないという、私自身の最初の能動的な降伏の儀式を行った。この公衆の目がある場所での背徳的な秘密こそが、私を支配への道へ突き動かす強烈な燃料になるだろう。
指定された時刻の5分前に電車に乗り込んだ。3両目。
私の指先は薄く紫色を帯びたパールのネイルで彩られていた。周囲の乗客の視線が私の裸の秘部に纏わりつく。私は誰も知らないこの屈辱的な秘密に、既に興奮を覚えていた。
(もう引き返せない。完璧という名の重荷を背負った優等生としての「環」は、この公衆の場での羞恥によって、静かに死ぬんだ)
その時私の背中に、硬く、熱く、圧倒的な統率力を伴った存在が密着した。
周囲の乗客の圧力とは明らかに異なる、私だけを支配する意図的な質量。漆黒のスーツ越しに伝わる、鍛えられた筋肉の冷たい感触が、私の背骨に突き刺さる。
「っ……」
私は息を呑んだ。この熱と重さこそが、私の重い責任からの「解放」なのだと、肉体が理解する。
彼の大きな手が、私の腰のラインに沿って回されてきた。その指先が、私が意図的に下着をつけなかった裸の臀部のわずか上に、揺るぎない確信を持って触れた。
(私の羞恥心を、この男は最初から知っていた)
その事実が私の内側で恐怖を打ち消すどころか、指先の熱が私自身の背徳的な秘密を見抜かれた羞恥を一瞬で焼き払い、全身を貫く電流のような快感へと変換し服従へと変わる。
彼の硬い身体の密着に全身が硬直したまま、私は息を殺した。
私の耳元に囁かれた低い声。
「環。よく来た。お前が、俺に人生を委ねる覚悟を決めたことをその裸の尻が証明している」
その声は、優奈がDMで話していた『彼』の優しさとは、完全に断絶していた。冷たく、一切の感情を排し、ただ事実を理路整然と断定する支配者の声だった。
(やはり、優奈の「甘さ」を弄んだ優しさとは違い私には論理と命令だけが必要だと、この男は知っていたのだ。この冷酷さこそが、私という檻を壊すハンマーだ)
私はその声と全身から発せられる圧倒的な統率力に一瞬だけ恐怖を感じたが、すぐに分析を始めた。彼の声は深く、理性的で、計画的だ。彼の体躯からは、私が優等生として理想としてきた「完璧な統率力」のオーラを感じ取れる。
この人物は、私の責任感や不安、私の持つすべての重荷を、躊躇なく、私自身の意思を凌駕して引き受けてくれるだろう。私自身で決断を下す必要は、もうない。
私は彼の熱い胸板に背中を押し付けながら、その硬質な手を、私の腰にさらに深く、自らの意思で引き寄せた。
(お願いします。私を支配してください。優等生としての重荷から、私を解放してください。あなたの道具として、あなたに責任を負わせることで、生きていきたい)
私の瞳から、緊張と、そして救済される期待への安堵の涙が一筋こぼれ落ちた。この目の前の絶対的な支配者こそが、私の新たなる運命なのだ。