「次はしめ鯖をお願いします、ご主人様」
「しめ鯖とは若いのに好みが渋いな」
「メグはもう25歳だから、十分オトナですよ、ご主人様」
「つい最近、『オトメ(処女)』から『オンナ』になったばかりのくせに」
そう言って拓海は芽美の股間を撫で回す。
「ダメです、ご主人様。まだ食事中ですよ」
「何を言ってるんだ?お前は俺の愛玩物だから、いつでも俺が好きなように可愛がれるんだぞ」
愛玩物と言われて芽美の心は妖しくざわつく。芽美は先ほどと同じく手錠をかけられたまま拓海の股間に座って、背を拓海に預けている。拓海はその芽美の口に、出前の握り寿司を手で摘んで与えている。トロ・赤身・イクラ・ウニ・甘エビ・サーモン・タコ・しめ鯖・玉子・納豆巻き、芽美が好きなネタばかりだ。
自分に細かな気配りをみせる拓海に安心感を抱く一方、怖くも感じる。一緒にお寿司を食べに行ったことがないのに、どうして好みを知っているのか?私のことを徹底的に調べたにちがいない。私よりも私のことを知っているようなこの男に抵抗しても無意味なのではないか。これまでだって、ずっとこの男のペースに乗せられてきている。今だってほら、私の大切な箇所を撫で回した手でそのままお寿司を摘んで食べさせようとしてくる。そう、今の私は彼の愛玩物、いいえ『マゾ牝奴隷』なのだから、それ相応の態度を示さないといけないの・・・。
「ああん・・・ご主人さまぁ・・・♡」
そんな風に思う芽美の声は自然と媚を帯びたものになり、態度もますます甘えたようになる。芽美としてはあくまで甘えるフリをしているつもりだが、とても演技には見えない。演技をしなければいけないという建前のもとで、これまでの25年間、男に甘えたことがない芽美が今の状況を甘受し楽しんでいるのは拓海には明らかだった。
ご主人様という言葉に抵抗がないのは、芽美は高校生の頃にメイドカフェで3ヶ月ほどアルバイトをしていた経験があるからである。可愛い衣装が着たくて同級生に秘密でこっそり始めてみたが、女同士の人気争いと足の引っ張り合いが酷かったことに加えて、お客さんの一人がストーカーじみた行為をしてくるようになり怖くなって辞めてしまったことを拓海は調べて知っていた。
―それにしても随分リラックスしているようだが・・・自分をメグと呼んでいたり、子どもっぽくもなっているような・・・身体を許した男に対して依存する甘えん坊タイプであることは間違いないが、今の異常な状況に少しおかしくなっていることもあるのか・・・それとも実は意外と図太い性格なのか・・・いずれにせよ好都合ではあるな―
そんなことを思いながら芽美に寿司を食べさせ続ける拓海。
「ご主人様、しめ鯖おいしい。でもメグ、喉が渇きました」
「よしよし、メグはお茶が好きだったね?ほら」
口移しで冷たいお茶を飲まされる芽美。
「ありがとうございます、ご主人様。もっと欲しい」
「ふふ、メグはご主人様にキスされるのが大好きなんだね?」
「そうです。でもキスはお食事が終わったらにしてほしいなぁ」
「もうエッチがしたくなったのかい?やっぱりメグは淫乱だね」
「いいえ、淫乱なんかじゃありません。ご主人様だって仰ったじゃありませんか、メグはご主人様にオンナにされたばっかりだって」
「お前の本心はわかってるぞ。俺に厳しく躾けられて、早く一人前のマゾ牝奴隷になりたいんだろう?そのためにもセックスの悦びを早急に覚えさせてやらないとな」
「・・・セックスの悦びは教えてもらいたいけど、マゾ牝奴隷にされるのは怖いんです・・・」
これを聞いて拓海は思考を巡らせる。
―とうとう本音が表れたようだな・・・セックスを愉しみたい、そのために俺に調教されるのもかまわない、でも『マゾ牝奴隷』にされるのは『怖い』・・・ここをもう少し深掘りしてみる必要があるな―
「メグは俺に調教されるのはかまわない、でも、その結果、『マゾ牝奴隷』になるのが『怖い』んだね?『イヤ』ではなくて?」
「かまわないわけではないですけど・・・・自分がもしかしたらマゾなのかなって思うこともあるし、イヤなことを全部忘れて、好きなときに寝て、ご飯食べて、エッチできたら幸せなのかなって、そういう生活にも興味があるの。『マゾ牝奴隷』っていうことだって、なんだかんだ言って拓海さんは優しいから・・・でも・・・」
「でも?」
「でも、もしわたしが『マゾ牝奴隷』にされていることが他の人達、職場の人たちや、友人たちや、家族に知られて、影で噂されたり距離を置かれたりしたらと思うと不安で・・・居場所がなくなっちゃう・・・それに、ここでの生活に慣れちゃって普通の生活ができなくなったら困るし・・・奴隷ってことで、他の知らないたくさんの男の人とエッチさせられるのはイヤだし、それで病気になったり、妊娠したりしたらって思うと・・・とっても怖いわ」
「そうだね、メグの言っていることはとってもよくわかるよ」
拓海は芽美を後ろからしっかりと抱きしめ、芽美の右耳に低く落ち着いた声でゆっくりと語りかける。
「だから、こうしたらどうかな?まず、メグが俺の『マゾ牝奴隷』だっていうことは、僕達だけの秘密にしよう。僕達っていうのは、メグと僕、それにナターシャの3人のことだよ」
「ナターシャさんもなの?」
「彼女にとってマゾの女性は奇異な存在ではないし、メグにもそういうことをなんでも相談できる女性がいたほうがいいだろう?彼女はメグのことを言うような相手もいないし。そもそもメグのことをほとんど何も知らないから、話しようがないな。彼女だってソープで働いていることとか、借金抱えてることとかを話されたくないし」
「そうなんですね。でも拓海さんはメグのことを話す相手がいますよね?それにネット投稿したりもできるし・・・」
「そうだね、たしかに僕はメグのことをいろんな人に自慢したくなってしまうかもしれない。でも、そんなことをしたらメグに嫌われてしまうし、メグにちょっかいをかける男があらわれて面倒くさいことになるし。だから大丈夫だよ、メグ」
「うーん、でも・・・・」
「それでも不安かい?なら、そうだね、僕の恥ずかしい秘密をひとつ教えてあげるから、もし僕がメグのことを話すようなら、メグも僕のことを話してしまえばいいんじゃないかな?」
「・・・・うん・・・・わかった・・・・」
「昨日、中出ししても妊娠はしない、なぜならパイプカットしているから、って話しただろう?あれはウソなんだ」
「ええっ?!じゃあ妊娠しちゃうかもしれないってこと!?」
「あ、いや、妊娠の可能性はゼロではないっていうだけで、心配する必要がないくらい低いんだ。20代半ばにかかった病気のせいで、作られる精子の生殖能力が極めて弱くなってしまって。ほら、これがその診断書。妊娠が不安だからピルを飲むなんていうから、これを見れば止めてくれるかなと思って持ってきた。低用量ピルにだって、まだまだリスクがあるからね」
「そうなんですか・・・・。でもそれって恥ずかしいことなんですか?」
「恥ずかしいというか、自分が欠陥品みたいな気がするよ。メグだって、もし自分が妊娠できない身体だったら、それを秘密にしておきたいんじゃないかな?」
「そうですね、なるほど、よくわかりました」
「それから、ここでの生活には早く慣れて欲しいけれど、ずっとここにいるわけじゃないから。週に2日間程度のことだから、普通の生活が送れなくなるなんてことはあり得ない」
「だって、金曜の夜からずっとここに居るんです。ほんとに帰してもらえるのか、いつここを出られるのか不安なんです。」
「あれ、言ってなかったかな?お寿司を食べ終わったらメグをここから出して、一緒にお風呂に入ってから隣の寝室でメグの希望するロマンチックなセックスをする予定なんだが」
「今はじめてですよ、聞いたの。でも隣の寝室で?期待して大丈夫なのかなぁ?」
「ふふん、それは見てのお楽しみってことで」
自信たっぷりな拓海の様子に芽美は安心する。私のためにこんな部屋を作っちゃった人が言うなら大丈夫だろう。
「ふふ、期待させていただきます」
「最後に、他の男とうんぬん、について。確かにそういう趣味の男もいるよ、乱交好きとか寝取られ属性持ちとか。でも俺は嫉妬深いし、自分の女をとことん自分好みにしたいタイプだから心配するな!この部屋に他の男は絶対に入れないし、メグが外に出たときは他の男とセックスできないように手を打つ。メグには口と女性器と肛門の3つの穴で、俺のペニスの感触と精液の味を覚えてもらう。俺の姿、声、体臭など俺の存在を感じただけで発情し、求められたらすぐに女性器を濡らしてセックスに応じる俺の女に調教するつもりだ。そんな女を他の男に気安く抱かせるわけがないだろう?」
「それならいいけど・・・メグ、ご主人様がいるだけで発情する女にされちゃうんだ・・・」
「そうさ。愉しみだろう、メグ?」
「うん・・・いいえっ、ベ、べつに、そんなこと・・・」
拓海の説明を聞いているうちにゾクゾクとしたマゾヒスティックな感覚が湧き上がり、うっとりとしてしまった芽美はそのまま同意しそうになって、慌てて首を横に振る。
「ふふ、俺だけに抱かれるなら怖くはないだろう?」
「そうですね」
「わかったら早くお寿司を食べてしまおう」
「はい、ご主人様。つぎは玉子をくださいな」
「ほら」
「納豆巻き」
「ほら、ほら、ほら」
「もごもごぉもご(いっぺんには無理ですよう)」
「ほら、これで最後な。お茶もあるぞ」
「・・・・はい、ご馳走様でした。お風呂に入れるんですよね?嬉しい」
「そうだ、ちょっと待て」
拓海はナターシャに連絡をとり、風呂の準備ができていることを確認する。
「よし、今からお前を運ぶから、許可を出すまで目を閉じていなさい」
拓海は芽美の口元をぬぐうと側を離れ、隣室に通じるドアを開けに行く。戻ってきて芽美の首輪から鎖をはずすと両手で抱きかかえ、両手は未だ後ろで手錠をかけられたままの女を、お姫様抱っこしながら隣室に通じる扉をくぐりぬける。
「ここがお前のために用意した、もうひとつの部屋だ。さあ、目を開けて」
命令に従い芽美は目を開ける。暫しの間、部屋の明るさに目をしばしばさせていたが、それに慣れると、切れ長の瞳を大きく見開き驚嘆の声を上げる。
「まあ!すごく素敵ですね、ご主人様っ!」
南向きの大きな窓から3月下旬の日曜日の午後の穏やかな日差しが注ぎ込むその部屋は、普通の寝室ではなかった。調教部屋のようなアブノーマルさではなく、欧州貴族が使っていたかのような上品な豪華さがあるという点で。
床には厚手のペルシャ絨毯が敷かれている。窓ガラスはステンドグラスが嵌められて、カーテンはレース基調のおしゃれなデザインのものが掛けられている。窓際のミニテーブルやイス、反対側の壁のクローゼットなどの調度品は、木目調のクラシカルなデザインで統一されている。
テーブル上の花瓶には数本の赤い薔薇が生けられ、その脇の壁には裸婦を描いた宗教画が飾られている。壁紙はくすんだ薄ピンクのダマスク模様、天井は同系色のアラベスク模様だ。
天井に照明はない。明かりはベッド脇の大きな間接照明が主で、テーブル上にアロマキャンドルが二つ、その明かりを補助するように置かれている。
しかし、最も目を引くのは、窓側と左側の壁に接するように置かれているクイーンサイズの天蓋付きベッドであろう。寝室スペースの大半を占めているそれは、白いレースのカーテンやフリル付きのベッドカバー、天蓋とそれを支える柱のロココ調の意匠など、女の子なら誰もが憧れる豪華さとロマンチックさを兼ね備えていた。
「ここも調教部屋なの?」
先ほどの拓海の言葉とこの部屋の雰囲気の違いに芽美は違和感を感じて質問する。
「そうだ。正確には、奉仕とご褒美の部屋だ。向こうの部屋ではお前は何も考えずに俺の命令に従いSMセックスを受身で愉しめばいい。だがここでは、お前はその頭を精一杯働かせて俺を性的に満足させる方法を考え実践するんだ。むこうがマゾ牝奴隷メグの『憩いの部屋』だとすれば、こちらは『仕事部屋』ということになるな。それが上手にできたら、ご褒美として、今日ここでこれからするように、新婚早々の若妻を抱くような雰囲気で、優しくお前を抱いてやる」
自分が中世ヨーロッパのとある王国の平民の娘で、その国のイケメン皇太子様に見そめられて交際を申し込まれるものの、身分違いから泣く泣くお断り。しかし強引に連れ攫われて、お城の豪華な私室で無理やり契りを結ばされ、そのままメイドとして昼も夜も体でお仕えする・・・・。
そんな夢想をしたことのある、他の女の子よりいささかロマンチストで少女趣味な芽美の胸の鼓動は激しく高まる。どうして私の性的嗜好にぴったりの状況を用意できるのだろうと、拓海への恐れを更に深まらせながら。
「だいぶ気に入ってくれたみたいだね、メグ。でもお風呂に入って身だしなみを整えないと。お愉しみにはそれに合った雰囲気づくりが重要だから」
拓海はそう言うと、腕の中でそわそわしている芽美をあやしながら、先ほどとは別の右の扉を抜けて浴室へ歩いていった。