第1話「丑三つ時の初詣」前編:汗だくの姫はじめ

 1月6日の夜の9時過ぎ。 世間はとうに仕事始めを終えている。年末からお正月にかけて客が殺到していた東京郊外の新しいテーマパーク『トーキョーKawaiiランド』(カワラン)にも、ようやく新年の静けさが訪れようとしていた。

 クローズした園の通用口から次々と人が現れ駅へと向かう。その中に、明るいピンク色のダウンコートを羽織ってよろよろと歩く、来栖くるみ(くるす・くるみ)の姿があった。『マシュバラ』のスーツアクター(中の人)を勤めて半年になる20歳のフリーター。小柄で愛くるしい顔立ちをしているからピンク色のダウンも違和感を感じない。

 マシュバラのコンセプトは『マシュマロボディの可愛いカピバラさん』で、人気者が多いカワランのマスコットキャラの中ではイロモノ扱いされている。でもカピバラ好きのくるみにとってマシュバラは、ハートのど真ん中を撃ち抜かれたイチ推しキャラだ。

 それでも年末からずっと中の人を演じ続けていたから、待望の明日からの2連休を前にして完全にグロッキー状態。 ゾンビ映画のエキストラみたいにふらついている。 目は虚ろで、俺の車に気づかずに通り過ぎていこうとする。慌てて窓を開けて声を掛ける。

「お疲れ、くるみ!」

「あっ!ぬし!」

 車のロックを解除するとくるみが助手席のドアを開けて雪崩れ込んできた。 高級レザーのシートに深く沈み込む。

「……しんだ……最低10回はしんだ……」

  一言だけ漏らし、脱力。 白目をむきかけている。完全な電池切れ。

 俺は何も言わずに、ホットのカフェラテを氷のように冷たい彼女の頬にぴたりと当てる。猫舌のくるみに丁度良い熱さの、くるみの好みの砂糖たっぷりの激甘仕様。 口をつけたくるみの顔がにへらと緩み、ちびちびと飲み進めていくにつれ、死んだ魚のような瞳にハイライトが戻ってきた。

「ぷはぁーっ! 生き返ったー! マジで死ぬかと思ったー!」

  どうやら再起動に成功したようだ。くるみがいつもの調子でマシンガントークを開始して、車内の空気が一気に騒がしくなる。

「ねぇねぇ聞いてよぬし~! もうほんっと最悪! 今日ちょーーー忙しいし! わけわからん客ばっかだし!」

 俺は車を発進させる。目指すは俺のマンション。

「ん」

「聞いてる!?あのね、パレードの最中にガキんちょに尻尾引っ張られてさぁ!重心崩れてすっころんだの!そしたら客が『マシュバラこけた草』とか言って爆笑しながら写真撮ってんの!マジありえなくない!?」

「それは災難だったな」

「でしょー!? もうそこでマシュの頭引っこ抜いて帰ろうかと思ったわー。中身見せつけてトラウマ植え付けたろかって!」

身振り手振りを交えてギャーギャー喚く。 元気そうで何よりだ。

「お腹空いたろ」

「ん、ぺこぺこ! 背中とお腹くっつく!」

「まずは身体を休めてからな」

「はーい」

 横浜新道を降りてしばらくすると、みなとみらいの景色が見えてきた。 くるみの愚痴は止まらない。

「でさー、更衣室のロッカーがまた臭いの!ファブリーズもっと置けって話!」

「ああ」

「休憩室のお菓子もさ、マシュマロばっか補充されてんの。共食いしろってか!」

「共食いはダメだろ」

「でしょーー!」

  俺は適当に相槌を打ちながらハンドルを操作する。 くるみの中にある毒を全部吐き出させてやるのもご主人様の役割のうちだ。 高層マンションの地下駐車場に車を滑り込ませる頃には、カフェラテのブースト効果が切れたらしく、再び死んだ魚の目に戻った。

「先に飯食いに行くか?」

「んー……とりあえず休む~。もう一歩も動けな~い」

 エレベーターで上階へ。 ドアを解錠すると、 くるみはヒールを放り出して浴室へ直行しようとする。

「シャワー浴びる! 汗でベタベタだし」

  俺はその腕を掴んで引き寄せた。

「姫はじめはそのままがいい」

「は? いやいや、マジで臭いって。インナー着てたけど汗だくだよ?」

「それがいいんだ」

「うわ、変態だ、キモ~!」

 7連勤で連日ろくに休憩する時間もないほどの忙しさと聞いていた。抵抗する体力が残っていないのだろう、くるみは大人しく俺の胸に収まった。小柄な肉体は俺の大柄な胸の中にすっぽり収まってしまう。もう逃げられない。

  首筋に鼻を埋める。 くるみの匂い。 柑橘系の香水と、長時間労働の汗の入り混じった、若いオンナの艶めいた匂い。 首筋をひと舐めすると、くるみの身体がビクリと跳ねる。

「ちょ、舐めないでってば……汚いし……」

「汚くない。頑張った証拠だ」

  鎖骨の窪みに溜まった汗を舌先で救う。

「ひゃ……っ」

 恥ずかしさで耳まで真っ赤になっている。 口では文句を言いながら、身体は正直に熱を帯びていく。半開きになった口元から紅い舌が誘うように見え隠れする。誘惑に負けて思わず唇を奪う。 条件反射でくるみが舌をねっとり絡めてくる。そんなくるみが愛おしく、華奢な身体を強く抱きしめる。

「んぅ……ぬしぃ……」

 甘い吐息。

「どうした?『くるくるぱー』になりたくなったか?」

  耳元で囁くと、くるみはとろんとした目で俺を見上げた。

「うん……して……いつもみたいに、くるみをなにも考えられなくして」

「よしよし、愛い奴だ」

 『くるくるぱー』になりたい、と言うのはくるみがエッチしたくなったときのおねだりの言葉だ。来栖くるみを略して『くるくる』が絶頂して我を忘れて頭が『ぱー』になった状態を表す隠語が『くるくるぱー』。直接エッチという言葉を使うより洒落ているし、くるみのキャラに合っている。

 服を剥ぎ取るような余裕はなかった。 互いに貪るように唇を重ねたまま、ベッドへ雪崩れ込む。 二人分の体重でスプリングが大きく軋んだ。 久しぶりの感触。 柔らかい唇、華奢な骨格、体温。 その全てが愛おしく、同時にひどく昂ぶる。

「んっ……ふ……ぬしぃ、くるしい……」

  息継ぎの合間に漏れる甘い声。 俺はわずかに身体を離し、くるみを見下ろした。 熱っぽい瞳が潤んでいる。 まだ着ぐるみのインナーを着たままだ。 ピンク色のテカテカした素材が、汗で肌に張り付いている。

 手を伸ばし、ジッパーを引き下ろした。 ぷんと、匂いが弾けた。 若いメスの匂い。 甘ったるい香水の奥に、労働の汗と微かな発情の匂いが混じっている。 理性が半分消し飛んだ。

「あ……」

  露わになった胸元を、俺はためらいなく舐め上げた。 鎖骨の窪みに溜まった汗を舌先で掬う。 しょっぱい。 どんな高級な酒よりものぼせる味だ。

「ひゃぅっ! だ、だめだってば、汚いし、臭いし……!」

  くるみが身をよじって抵抗する。 本気で嫌がっているわけではない。 恥ずかしさでパニックになっているだけだ。

「いい匂いだ。興奮する」

「へんたい……っ」

  脇腹から胸の谷間へ、這うように舌を滑らせる。 敏感な乳首を甘噛みすると、くるみの背中が大きく跳ねた。

 インナーと下着をまとめて脱がせる。 一糸まとわぬ姿になったくるみは、まともな思考ができなくなっているのか、ぼんやりと天井を見つめている。

 俺はその秘所に顔を寄せる。 ここが一番、匂いが濃い。 すでに透明な蜜が溢れ、太腿の内側を濡らしていた。鼻先を擦り付けると、ビクビクと筋肉が収縮する。

「……くるくるぱー、になりたいんだったな?」

  わざと意地悪く尋ねる。

 くるみは焦点の合わない瞳で俺を見て、コクコクと頷いた。

「なりたい……して……」

  俺は舌を突き出し、熟した果実のような割れ目を割り開く。

「んあぁっ!」

  声にならない悲鳴。 クリトリスを執拗に弾き、入り口のひだを丁寧に解きほぐす。 開発され尽くした身体は、わずかな刺激にも敏感に反応する。 蜜の量が増え、俺の顔を汚していく。 肉が擦れる卑猥な水音が、静かな寝室に響き続ける。

「はぅ、あっ、ぬし……もう、あたし、だめ……ぱーになっちゃう……」

  腰を浮かせて悶えるくるみ。

  俺は顔を上げ、その頬を撫でた。

「まだ早い。今日は『姫はじめ』だぞ。たっぷり可愛がってやる」

「うぅ……あ、じゃあ、あたしが、する……ご奉仕、する……」

 朦朧とした意識の中で、けなげにも「従者」の役割を果たそうとする。 だが、その身体は激務で疲れ切っているはずだ。

「今日はいい。お前は寝ていろ」

「やだぁ……それじゃあ従者失格だもん……」

  口を尖らせて抗議する。 愛い奴だ。

「なら、こうしよう」

 俺はくるみの身体を反転させ、互いの性器が顔の前にくるように体勢を整えた。 目の前に、俺の熱く勃ち上がったモノがある。 くるみは小さく息を呑み、震える手でそれに触れる。

「……おっきい」

「お前が元気にするからだ」

  俺も再び顔を埋め、蜜を啜る。くるみも負けじと、小さな口で俺の先端を咥え込む。熱い滑る口内。 一生懸命に舌を動かして奉仕しようとする健気さが、何よりも俺を興奮させる。

  下からは、俺の舌技に翻弄されるくるみの甘い喘ぎ声が聞こえてくる。 上と下、両方からの快感に、くるみの腰がガクガクと痙攣し始めた。

「んぐっ……ぷはっ……もう、むりぃ……ぬしぃ、ほしい……いれてぇ……」

  我慢の限界が来たらしい。 口を離し、涙目で哀願してくる。 完全に「くるくるぱー」の顔だ。その淫らすぎる顔が俺をケダモノへと変貌させる。

「よし。こっちを向け」

  体勢を戻し、くるみの両脚を肩に担ぎ上げる。秘所が一番大きく開く体勢だ。 濡れそぼった入り口に張り詰めた肉棒の先端をあてがう。

「ひさしぶりだからな。キツイかもしれんぞ」

「ん……へいき……ぬしの、ぜんぶ、ほしい……」

 その言葉を合図に、腰を沈めた。

「あひっ……!」

 きつきつの肉壁が、侵入者を拒むように、あるいは歓迎するように、強く締め付けてくる。 熱い。狭い。 理性が焼き切れそうだ。

「ふ、うぅ……はぁっ、はぁっ……入ったぁ……」

  くるみが首を振り乱して喘ぐ。 俺は彼女の腰をしっかり掴み、ゆっくりと抽送を開始する。

  グチュ、グチュ、と卑猥な音が加速する。 久しぶりの感覚に、くるみの内壁がさざ波のように蠢き、俺のモノに吸い付いてくる。

「あ、そこっ、深いっ、んあぁっ!」

「ここか?」

  最奥の、子宮口の入り口あたりを小突くと、くるみの身体が弓なりに反った。 俺が開発してやった弱点だ。 そこばかりを執拗に攻め立てる。

「や、やだ、すごっ、くるくるしちゃうっ、ぱーになっちゃうぅっ!」

「なればいい。俺が全部受け止めてやる」

  激しさを増すストローク。 くるみの声が悲鳴に変わる。 俺ももう限界だ。

「くるみっ、いくぞっ!」

「んあぁぁーーーっ!」

  最後のひと突きで最奥に達し、俺は彼女の子宮めがけて熱い塊を吐き出した。俺のモノが ドクドクと脈打ち、注ぎ込んでいくマーキングの感覚。 くるみの膣内も激しく痙攣し、俺のモノを一滴残らず搾り取ろうと締め付ける。

 長い絶頂の余韻。 俺はくるみに覆いかぶさったまま、荒くなった呼吸を整える。 腕の中のくるみはピクリとも動かない。 完全に脱力している。

「おい、生きてるか」

  耳元で囁くと、くるみはとろんとした目で俺を見上げ、力なく笑った。

「……うん。……なんか、また別の意味で死んだ……かも」

「そうか。それは何よりだ」

  俺は汗ばんだ彼女の額に、優しくキスをした。

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